レイアウト編 / 4章 構図の型

構図の型

画面に目を集める古典の型——三分割法・黄金比・対称/非対称・視線動線・焦点。絵画と写真の構図論から来た型に当てはめると「なんとなく」が「狙って」に変わる。型の出どころを歴史から理解する。

ねらい

絵でも写真でもWebでも、「なんかこの画面、いい感じ」と思うとき、たいてい裏にがある。型とは、昔の絵描きや写真家が「ここに置くと目が集まる」と発見し、何百年もかけて確かめてきた置き場所の地図だ。

このクエストのねらいは一つ。「なんとなく真ん中」をやめて、「ここに置くと決まる、なぜなら〜」と言えるようになること。型を5つ覚える――三分割法・黄金比・対称/非対称・視線動線(Z型/F型)・フォーカルポイント。どれも出どころは絵画と写真の構図論だ。理由ごと身につければ、配置が「気分」から「狙い」に変わる。

型を知らない 「なんとなく真ん中」 毎回ブレる 型を知っている 「ここ、なぜなら〜」 狙って決める
図1:型を持つと、配置の理由を言葉にできる。これが「狙って作る」ということ。

なぜ「型」があるのか ―― 絵画と写真が貯めた地図

そもそも、なぜ置き場所に決まりがあるのか。理由はシンプルだ。人の目には、自然と止まりやすい場所と、素通りする場所がある。 真ん中にドンと一つ置くと、たしかに目立つが、止まったきり動かず、退屈に見えやすい。少しずらすと、目が「探して、見つける」動きをするので、画面が生き生きする。

この「どこに置くと目が動くか/止まるか」を、何百年もかけて確かめてきたのが絵画と写真だ。画家は限られたキャンバスの中で、どう配置すれば見る人の目を導けるかを延々と研究した。写真が生まれてからは、一瞬で構図を決める必要が出て、その知恵が「使える型」へと結晶した。

ここが大事な点だ。これらの型は、誰かが机の上で発明したルールではない。「この置き方は目を引く」という観察を、何世代もの作り手が試して残した経験のかたまりだ。だから私たちはゼロから考えなくていい。地図を引き継げばいい

絵画 何百年もの 配置の研究 写真 一瞬で構図を 決める知恵 使える「型」 三分割・黄金比 対称・焦点… 型=発明ではなく、観察の積み重ね(だから引き継げる)
図2:型は誰かの思いつきではなく、絵画と写真が貯めた「目の動きの地図」。

型1:三分割法 ―― 真ん中を避けて、交点に置く

いちばん使いやすい型が三分割法だ。やり方はかんたん。画面を縦に2本、横に2本の線で9等分する。すると、線が交わる4つの交点ができる。大事なもの――人の顔、商品、見出し――を、この線の上か、4つの交点のどれか1つに置く。それだけだ。

なぜ真ん中ではダメなのか。真ん中は一番「安全」だが、一番「退屈」でもある。目が中央で止まって、動かない。少しずらして交点に置くと、まわりに余白の差が生まれ、目が「主役」と「背景」を区別できる。結果、画面に奥行きと動きが出る。

中央に置く(退屈) 交点1つに置く(決まる) ここ
図3:縦横2本ずつで9分割。4つの交点(小さな点)のうち1つに主役(赤)を置くと、余白の差が生まれて画面が締まる。

この型には、はっきりした出どころがある。「三分割(rule of thirds)」という言葉を初めて書き残したのは、イギリスのジョン・トマス・スミスで、1797年の著書『田園風景についての覚え書き(Remarks on Rural Scenery)』の中だ。彼は、その14年前(1783年)に画家ジョシュア・レイノルズが語った「明暗のバランス」の話を引き、それを画面全体の割合の法則へ広げて「三分割の法則」と名づけた。つまりこの型も、いきなり生まれたのではなく、先人の話を継承して結晶した。何かへの反作用というより、「明暗だけの話」を「画面全体の割合」へと一段広げた継承だ。これが楽典の言う「典拠主義」――判断を出どころで裏づける――そのものである。

型2:黄金比 ―― 自然がくり返す心地よい割合

三分割法の親戚に、黄金比がある。黄金比とは、おおよそ 1 : 1.618 という割合のこと。長方形の短い辺を1とすると、長い辺が約1.618になる比だ。

この比は、たとえばヒマワリの種の並びのように、自然界に黄金比に近い割合が現れることがある(種が一番すき間なく詰まる角度が、たまたま黄金比と結びつく)。だから人は、この割合を「なぜか落ち着く・心地よい」と感じる、と長く言われてきた

ただし、ここは典拠主義として一歩引いておく。「オウムガイの殻が黄金比」「人の顔は黄金比だから美しい」という有名な話は、実際に測ると黄金比ではなく、現代では否定されている(オウムガイの殻はうずまき=らせんだが、比は約1.33で1.618ではない)。つまり「自然や美の必然」とまでは言えない。心地よさの一部は、装飾的に語り継がれてきた面も大きい――この点も「型は当てずっぽうを減らす道具で、保証ではない」の好例だ。

三分割法が「だいたい3等分」のざっくり版なら、黄金比はその精密版だと思えばいい。実際、両者は近い場所を指す。3等分なので線は端から 1/3=約33%。黄金比では分割点が長い側から見て 1.618÷(1+1.618)=約62%、その裏返しで端からは 約38%。だから両者はすぐ隣に来る。難しければ「どちらも“中央(50%)より少し端寄り”の近い場所」とだけ分かれば十分だ。迷ったら、まず簡単な三分割でいい。

黄金比 1:1.618 1 1.618 分割線=端から約38% 三分割(約33%) 三分割線はすぐ近く
図4:黄金比の分割線(約38%)と三分割線(約33%)はほぼ隣。どちらも「中央を外す」思想は同じ。

黄金比の出どころは古い。数の流れとしては、イタリアの数学者フィボナッチが1202年の著書『算盤の書(Liber Abaci)』で紹介した数列(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13…と前の2つを足していく並び)の、隣り合う数の比が、進むほど黄金比に近づく。ここは数学なので確かだ。そして、この比を「神の割合(神聖比例)」=美しさの基準として呼んでまとめたのが、ルカ・パチョーリの1509年の著書『神聖比例論(De Divina Proportione)』だ。図はあのレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた。黄金比は、当てずっぽうな割合決めに対する「割合の規準」として、500年以上にわたり継承されてきた――そう受け取るのが、誇張のない見方である。

型3:対称と非対称 ―― 安定をとるか、動きをとるか

次は画面全体のバランスの型だ。左右(または上下)で、重さの取り方が2通りある。

対称(シンメトリー)は、中心線をはさんで左右が鏡のように同じ。安定・正式・信頼の感じが出る。神社の参道、結婚式の招待状、銀行のロゴ――「きちんとしている」を伝えたいときに効く。ただし、整いすぎて動きがなく、堅く見えることもある。

非対称(アシンメトリー)は、左右が違う。でもバランスは取れている。これは「重さのつり合い」で成り立つ。シーソーを思い出すといい。シーソーは、軽い子でも遠くに座れば重い子とつり合う。中心から遠いほど“効き”が増す(てこの原理)からだ。あれと同じで、大きい物を中心の近くに、小さい物を遠くに置けば、重さが違ってもつり合う。デザインでも、大きな写真を片側に、小さな見出しを反対の遠い側に置くと、左右非対称なのに安定する。非対称は動き・現代的・活気を生む。

対称(安定・堅い) 中心線で左右が鏡 非対称(動き・つり合う) 大は中央寄り 小は遠く
図5:対称は安定だが堅い。非対称は「大は近く・小は遠く」でつり合わせると、動きが出てバランスもとれる。

どちらが正解ということはない。伝えたい性格で選ぶ。「信頼・伝統」なら対称、「活気・今っぽさ」なら非対称。歴史的には、20世紀のモダンデザインが「堅い対称」への反作用として非対称を積極的に使った――ここでも「何への反作用か」で型の意味が見えてくる。前のクエストで見たスイス様式の左揃え(軸を片側に立てる)も、非対称バランスの一種だ。この歴史は様式編で深く扱うので、ここでは型として軽く押さえるだけにする(詳しくは様式編「モダニズムの革命」「スイス・スタイル」へ)。

型4:視線動線 ―― Z型とF型は「重ねる型」

ここまでは「どこに置くか」の型だった。次は「目はどの順で動くか」の型だ。人の目は画面をランダムに見ない。読む文化のクセで、決まった道筋をたどる。日本語や英語のように左から右・上から下へ読む文化では、目も自然とそう動く。代表が2つある。図が多い画面で起きるZ型(左上→右上→ななめ左下→右下)と、文字が多い画面で起きるF型(上は横に長く、下は左端だけ縦に拾う)だ。

ただし、この視線動線の「なぜそう動くのか」と「実測データ」は、準備編「視線誘導」ですでに深く扱っている。だから本クエストでは、Z型/F型を構図の型の一つとして位置づけ、「構図を決めるときは視線動線も重ねる」とだけ押さえる。詳しい理由・典拠はそちらに委ねる。

図が多い → Z型 Z 文字が多い → F型 F
図6:図が多い画面はZ型、文字が多い画面はF型に目が動く。「なぜ」と実測は準備編「視線誘導」で扱う。ここでは構図に重ねる型として押さえる。

ひとつだけ歴史の整理を添えておく。Z型の下敷きはグーテンベルク図式(ダイアグラム=仕組みや流れを示した図解のこと)だ。アメリカの組版家エドマンド・アーノルドが1950年代に示したこの図式が本来扱うのは、強弱のない「均質な文章の塊」の読み流れで、左上から右下へ流れるとされる。「図が多い面はZ型」というのは、そこから派生してWebで広まった経験則である。一方、F型は新しく、確かな実測から来ている――アメリカのヤコブ・ニールセンらが2006年、232人の目の動きを機械で記録して突きとめた。Z型は経験則、F型は実測データ――出どころの強さが違う。この区別と詳しい中身は、準備編「視線誘導」にすべて書いてある。

型5:フォーカルポイント ―― 目を集める一点を、わざと作る

最後の型は、ある意味すべての土台だ。フォーカルポイント――画面の中で、真っ先に目が行く一点のこと。日本語なら「焦点」「見せ場」。良い画面には、必ず「まずここを見て」という主役が一つある。逆に、主役が無い/多すぎる画面は、目が迷って「結局どこを見ればいいの」となる。フォーカルポイントは、いわば「全部目立たせる(=何も目立たない)」への反作用として効いてくる型だ。

ではどうやって一点を作るか。まわりと差をつける(コントラスト)。差のつけ方は決まっている。

  • 大きさ:一つだけ大きくする
  • :まわりが地味なら、そこだけ鮮やかにする(モノクロに赤一点、など)
  • 余白:まわりを広く空け、ぽつんと置く(空白が主役を指さす)
  • 向き/違い:人の目は“まわりと違うもの”を自動で見つけるクセがある。だから同じものの中に一つだけ違う向き・形を混ぜると、そこに目が行く

そして鉄則――フォーカルポイントは原則ひとつ。二つ作ると、目が取り合いになって、どちらも弱まる。「全部目立たせる」は「何も目立たない」と同じだ。

焦点なし(目が迷う) 焦点あり(一点に集まる)
図8:左は全部同じで目が迷う。右は一つだけ大きく・色を変える=差をつけると、そこに焦点が生まれる。

この「焦点を作る」考えは、絵画ではずっと昔から使われてきた。宗教画で、暗い背景の中で主役の人物だけに光を当てるのは、まさにフォーカルポイントだ。明暗の差で目を一点に集める。型4までで学んだ三分割の交点・Z型の終点・非対称の重い側――それらは結局、この一点をどこに置くと効くかの地図だったとも言える。フォーカルポイントは、構図の型ぜんぶを束ねる「目的」なのだ。

見分け方

街やWebで、「なんかこの画面うまいな」と思ったら、次を確かめてみよう。型を見抜く目がつく。

  • 主役は真ん中ではなく、少しずれた位置(交点)にいないか → 三分割/黄金比
  • 左右が鏡のように同じか、違うのにつり合っているか → 対称/非対称
  • 目がZの形Fの形で動かされていないか → 視線動線(詳しくは準備編「視線誘導」)
  • まずここを見て」という一点が、はっきりあるか → フォーカルポイント
交点に焦点 左に文字(軸)
図9:交点に焦点、左に揃えた文字。複数の型は重ねて使える――これが「決まった画面」の正体。

これらの型は別々のルールではない。すべて**「人の目をどう導くか」という一つの問い**から出ている。型を丸暗記するのではなく、この問いを覚えれば、どの型をいつ使うかは自然に思い出せる。

最後に、5つの型の早見表を置く。型は地図であって、目的地ではない。目的地はいつも「何を伝えたいか」だ。型に当てはめるのは、当てずっぽうを減らし、目を狙った場所へ導くため。型どおりにして違和感が残るなら、前のクエストで学んだとおり――理由をもって外していい。まず継承し、わかった上で崩す。順番さえ守れば、型はあなたを縛らず、むしろ自由にする。

こういう時に使う 三分割法 主役の置き場所に迷ったら(まず基本) 黄金比 三分割より精密に決めたい時 対称/非対称 堅い信頼感なら対称/動き・今っぽさなら非対称 Z型/F型 図が多いならZ型/文字が多いならF型(準備編に既出) 焦点 毎回必ず。主役を一つに絞る(全部の土台)
図10:5つの型の早見表。三分割と焦点はほぼ毎回。あとは中身に合わせて選ぶ。

譜例

棚(design-gallery)で実例を見て、本文の型がどう現れているか確かめよう。

見るときは、(1)主役は交点あたりにあるか、(2)対称か非対称か、(3)「まずここを見て」という一点(焦点)がはっきりあるか、の3つを言葉にしてみるとよい。

練習・チェック

  1. 好きなWebサイトやポスターを1枚選び、主役(フォーカルポイント)がどこにあるか指さしてみよう。それは真ん中か、三分割の交点あたりか?
  2. その画面は対称非対称か。一文で言ってみよう(ヒント:左右が鏡なら対称)。
  3. 文字の多いページを開き、自分の目が最初にどう動いたか観察しよう。Fの形になっていないか? 大事な言葉は左・前に置かれているか?
  4. 三分割法は「発明」ではなく「継承」だと言える。なぜか、レイノルズ(1783)→スミス(1797)の流れで一文で説明してみよう。(ヒント:スミスは何の話を、どこへ広げたか)

用語 GLOSSARY

構図composition
画面の中に、何を・どこに・どう置くかという配置の組み立て方のこと。
かた
昔の作り手が『ここに置くと目が集まる』と確かめて残した、配置のお手本・地図のこと。
三分割法rule of thirds
画面を縦横2本ずつの線で9等分し、その線の上か交点に主役を置く構図の型。
交点こうてん
三分割の縦線と横線が交わる4つの点。主役を置くと画面が締まる、目が止まりやすい場所。
黄金比golden ratio
おおよそ1:1.618の割合。心地よいと長く言われてきたが、実証が確かなのはヒマワリの種の並びなど一部で、自然や美の必然とまでは言えない。
フィボナッチ数列Fibonacci
1,1,2,3,5,8,13…と前の2つを足して続く数の並び。隣り合う数の比が黄金比に近づく。
対称(シンメトリー)symmetry
中心線をはさんで左右(や上下)が鏡のように同じ配置。安定・正式・信頼の感じを出す。
非対称(アシンメトリー)asymmetry
左右が違うのにバランスがとれている配置。動き・今っぽさを出す。大は中心寄り・小は遠くでつり合わせる。
視線動線reading flow
人の目が画面をどの順でたどるか、その道筋のこと。読む文化のクセで決まった形になる(F型・Z型。詳細は準備編「視線誘導」)。
フォーカルポイントfocal point
画面の中で真っ先に目が行く一点。見せ場・主役。良い画面には必ず一つある。
差をつける(コントラスト)contrast
まわりとの違いを大きくすること。大きさ・色・余白などで差を作ると、そこが主役(焦点)になる。
ダイアグラムdiagram
物事の仕組みや流れを線や図形で示した図解・図表のこと。

RULES TO CITE

  • 主役の置き場所に迷ったら、まず画面を9分割し、線の上か4つの交点のどれか1つに置く。真ん中のドン置きは退屈なので避ける(典拠1)
  • もっと精密に決めたいときは、端から約38%(黄金比)に主役や分割線を寄せる。ただし三分割で足りることも多い。型は保証ではなく当てずっぽう減らし(典拠2・3)
  • 「信頼・正式」を伝えたいなら対称、「動き・今っぽさ」なら非対称を選ぶ。非対称は『大は中心寄り・小は遠く』でつり合わせる(典拠4)
  • 構図を決めるときは視線動線(F型・Z型)も型の一つとして重ねる。理由と実測は準備編「視線誘導」に委ねる(準備編に既出)
  • フォーカルポイント(真っ先に見せたい一点)は原則ひとつに絞る。大きさ・色・余白・違いのどれかで差をつけて作る。二つ作ると共倒れ
  • 型どおりにして違和感が残るなら、理由をもって外してよい。まず型を継承し、わかった上で崩す(順番を守る)

典拠 SOURCES

  • John Thomas Smith『Remarks on Rural Scenery』(1797) ― 「rule of thirds(三分割の法則)」の語を初めて記述。1783年の Joshua Reynolds の明暗バランス論を継承・拡張
  • Fibonacci(レオナルド・ダ・ピサ)『Liber Abaci(算盤の書)』(1202) ― フィボナッチ数列を西欧へ紹介。隣り合う数の比が黄金比に収束する
  • Luca Pacioli『De Divina Proportione(神聖比例論)』(1509/執筆1498) ― 黄金比を『神の割合』として体系化。挿図は Leonardo da Vinci
  • 20世紀モダンデザイン(スイス様式ほか)― 堅い左右対称への反作用として非対称バランスを積極的に用いた(詳細は様式編「モダニズムの革命」「スイス・スタイル」へ)
  • 視線動線(Z型・F型/グーテンベルク図式・Edmund Arnold・Nielsen 2006)― 詳細は準備編「視線誘導」に既出。本クエストでは型の一つとして薄く触れるのみ

譜例(実例)

棚:構図の型の実例を見る ↗