レイアウト編 / 1章 グリッドシステム
グリッドシステム
ページを列とモジュールに分割し、全要素を升目に乗せる方法論。「整って見える」の正体は隠れた格子。スイス様式が体系化し、CSSグリッドへ継承された。
ねらい
なぜグリッドに乗せると「整って見える」のか。その正体を、グリッドという考え方が何を乗り越えて生まれたかから理解する。カラム・モジュール・ベースラインという三つの層を分けて、丸暗記でなく理由ごと身につける。
なぜ升目に乗せると整うのか
きれいに整って見えるレイアウトには、たいてい目に見えない格子(こうし=升目状の線)が隠れている。要素の左端・上端・幅が、共通の見えない線にぴたりと揃っている。人の脳は、その一致を「秩序がある」と読む。これは準備編でやったゲシュタルト(近くにあるもの・揃っているものを脳が勝手に「仲間」とまとめる働き)の帰結だ。同じ線に乗ったものを、脳は「関係がある」とひとまとめにする。
逆に「なんとなく散らかって見える」とき、原因はほぼ一つ。要素がどれも共通の線に乗らず、それぞれ宙に浮いている。ほんのわずか(コンマ数パーセント)ずつズレた余白や幅が、無数の小さな不一致になって「落ち着かなさ」を生む。グリッドとは、この「なんとなく」を一気にまとめて消す道具だ。位置を「気分」でなく「何列目か」で決めさせる。
グリッドは三つの層でできている
「グリッド」と一語で呼ぶが、中身は三つの違う格子が重なっている。混ぜて考えると設計できない。三つは横並びではなく、下の層が上の層を支える積み木のような関係として読むとよい。下の段がないと上の段が乗らない。
- カラムグリッド(縦の列) ―― ページ幅を等しい幅の列に割り、列と列のすき間(ガター/溝)で区切る。文章や写真の横幅と、どこから始めるかを、この列の単位で決める。Webでよく聞く「12カラム」はこれ。
- モジュールグリッド(升目) ―― 縦の列だけでは要素の横の位置しか決まらない。写真や図のかたまりの上端や高さまで揃えるには、横方向にも線を引いて、縦×横の二次元の升目(モジュール)にする必要がある。これを体系化したのが Müller-Brockmann だ。
- ベースライングリッド(横の罫) ―― ベースライン=文字が立つ底の線のこと。本文の行送りを一定にすると、その底の線が等間隔の水平な罫(けい=横線)になる。これがベースライングリッドだ。複数の列があっても各行の底が同じ罫に乗り、縦方向にリズムが生まれる。
ここで行送りを正しく押さえる。行送りとは「行と行のすき間」のことではない。ある行の文字の底(ベースライン)から、次の行の文字の底までの距離のことだ。すき間ではなく、底から底までの一定の刻み。だからこの刻みを一定にすると、底の線がきれいに等間隔でならぶ ―― それがベースライングリッドだ。(CSSの line-height がこれに近い役目をする。深追いはしない。)
そして、この一定の間隔(=行送り一つぶん)を「ものさしの1目盛り」として使う。見出しの大きさも、要素どうしの余白も、その目盛りの2倍・3倍…という整数倍で決める。すると本文だけでなくページ全体が同じ刻みでそろい、縦のリズムが一本につながる。
設計の順序は「マージン(外周の余白)→ カラム数とガター → モジュールの行 → ベースライン」。これは暗記する手順ではなく、前が決まらないと次を決められない依存関係だ。
- マージンが最初 ―― 外周の余白を引いて初めて「使える紙面(版面)」の大きさが決まる。版面が決まらなければ、列を何本・どの幅で引けるか決められない。
- カラムとガターが次 ―― 列の骨格が決まって初めて、横の行をどこで割るか(モジュール)を乗せられる。
- ベースラインが最後 ―― 列と升目という面の骨格が決まって初めて、その中を流れる行の刻みを合わせられる。
つまり先に枠と列を決め、中身は後から升目に従わせる。「足してから整える」でなく「枠に従わせる」。これがグリッドの思考の順番だ。
版面を割る、という問いの系譜
ここで言う版面(はんづら)=外側の余白を除いた、実際に文字や写真を置ける“紙の中身の面積”のこと。グリッドは突然の発明ではない。「版面をどう割るか」という問いは、印刷より前からあった。各時代は、前の時代が抱えていた限界を一つずつ乗り越えてきた。各項の冒頭に、その時代が何への反作用で前を超えたかを太字でひと言だけ立てておく。固有名詞や年号は、その目印として読み流してよい。
①写本・活版(中世〜15世紀)― まだ勘だけで、理論として書き出されていなかった段階。 写本(手で書き写した本)の二段組(1ページを縦2本の列に割って文章を流す組み方)や、グーテンベルクの42行聖書の二段組のように、初期の活版印刷(金属の文字を並べて刷る、グーテンベルクの方式)もすでに「列」と「行送り」の格子の上にあった。ただし、職人の経験と勘によるもので、理論として書き出されてはいなかった。
②版面比例の理論化(〜20世紀半ば)― ここで職人の勘を超えた。 中世写本に隠れていた美しいページ分割は、後に Van de Graaf がマージン比 約1/9・2/9という幾何学のカノン(美しい紙面を図と比で定めた作図のきまり)として定式化し、Jan Tschichold がそれを「調和あるページ」の理論として広めた。「マージン比 約1/9」とは、たとえば紙の横幅を9等分したとき、内側(のど側)の余白を1つ分・外側を2つ分とる、というような“余白の取り方の決まり”のことだ。比そのものは、必ず「何を何等分したうちの何分か」が分かって初めて意味を持つ。
なお、この割り付け法は俗に「Villard de Honnecourt の作図」と呼ばれる。だが正確には二段に分けて読む必要がある。線を等分する幾何の図そのものは、今に残るヴィラールのスケッチ帳(羊皮紙=動物の皮で作った紙。もとは50葉超で、現存は33枚)にある。しかし、その等分作図を“版面の割り付け”に当てはめた図(俗称 Villard Diagram)は帳面に無い。「ヴィラールが版面の割り付けを考えた」というのは、後の人 ―― 具体的には Tschichold が1953年に、自分の結論の確証としてヴィラールの等分作図を持ち出した ―― が当てはめた話で、本人がそう残した確かな証拠はない。引用元としては慎重に扱うべき例(典拠主義の作法)。Tschichold がこの版面比例(黄金のカノン)を命名・再構成したのは、戦後の1953年だ。
③機能主義の頂点 ―― スイス様式(1950年代)― ここでグリッドは個人の趣味や作家性を超えた。(→ 様式編・III章)。ここでグリッドは思想になる。戦争の時代の、主観的で感情過多な表現への反発から、デザイナーは「芸術家でなく客観的な伝え手」を名乗った。誰が作っても同じように正確に伝わる、中立で再現できるシステム。その骨格がモジュールグリッドだった。Müller-Brockmann の『Grid Systems』がこの方法論の聖典になる。
④プログラムとしての設計(1964)― 固定の升目の硬さを超えた。 Karl Gerstner は『Designing Programmes』で、デザイナーが決めるのは個々のレイアウトではなく、レイアウトを生み出すプログラム(完成した一枚ではなく、どんな中身も受け止める規則)だ ―― という発想を示した。彼の有名な格子は、一つの幅の中に1〜6カラムを同時に成り立たせる**動く格子(mobile grid)**だった。これは半世紀後のCSSグリッドやデザインシステムの考え方を先取りしている。
⑤Web ―― 系譜の継承(2008〜)― 紙の系譜を画面に移し、ついにCSS本体で升目を持った。 960.gs(2008頃。12・16・24カラム版を提供)は「列を割り切れる数で組む」という選択肢を示した。そして Bootstrap(2011。940px・12カラム)がその12カラムを採用して広く普及したことで、12カラムが事実上の共通語として定着した。これらはスイスのカラムグリッドを画面に移したものだ。なぜ12かというと、12は 2・3・4・6 で割り切れ、列の組み合わせが効くから。そして 2017年初め、CSS Grid Layout が主要ブラウザ(Firefox 52・Chrome 57・Safari 10.1)にわずか約一ヶ月のあいだ相次いで載った。それまでは升目を直接引く道具が無く、本来は画像のまわりに文字を回り込ませるための古い指定 float(float)などで“升目のフリ”をしてしのいでいた。CSS Grid はその回避策(回り道)を超えて、Webはついに二次元の升目をCSS本体で手にした。Gerstner の「mobile grid」が、fr 単位や repeat()・minmax() という形でほぼそのまま実装されたと言える。
なぜ今も効くのか
グリッドは「整って見せる飾り」ではなく、判断の数を減らす道具だ。位置を「何列目・何モジュール目」で言えるようになると、(1)一枚の中でズレない、(2)案件をまたいで同じ品質を再現できる、(3)客に「ここは2カラム分」と理屈で説明できる。序論で言った「恣意性を殺す」が、レイアウトで具体化した形がグリッドだと考えてよい。
見分け方・直し方
Webで「整って見えない」とき、まず疑うのはこの二つ ―― 要素がカラムの線に乗っていない(左端がバラバラ)か、縦のリズムが崩れている(ベースラインが揃っていない)か。要素を共通の列・升目に乗せ直すと、たいてい直る。逆に、複数の要素の左端や幅が同じ線で揃っていたら、その背後には必ずグリッドが効いている。
練習・チェック
手元のサイトのスクリーンショットを一枚開く。
- 複数の要素(見出し・本文・画像など)の左端が同じ縦線に乗っているかを、指でなぞって確かめる。
- 本文の各行が等間隔の横線に乗っているかを、同じく上から下へなぞって確かめる。
- 乗っていなければ、それがどちらの層の崩れかを言ってみる ―― 左端がバラバラならカラムグリッド、行の間隔がまちまちならベースライングリッド。
最後に、ズレている要素の正しい位置を「何カラム目・何モジュール目」で言えるか試す。言えるようになれば、その要素はもうグリッドに乗っている。
用語 GLOSSARY
- グリッドシステムgrid system
- ページを縦の列と横の行の升目に分け、全部品をその線に乗せて整える設計の方法論。
- マージンmargin
- ページの一番外側にとる余白。升目の枠の外側の余り。
- カラムcolumn
- ページを縦に区切ってできる帯。文章や写真はこの帯の幅に合わせて置く。
- ガターgutter
- 列と列のあいだの余白。溝(みぞ)とも呼ぶ。部品どうしがくっつかないための間。
- モジュールmodule
- 縦のカラムと横の行が交わってできる、一つ一つのマス。
- ベースラインbaseline
- 文字が立つ底の見えない横線。g や y の足だけがこの線より下に出る。
- ベースライングリッドbaseline grid
- 各行のベースラインを一定間隔の横線にそろえる仕組み。別々の列でも行の底が同じ線にそろう。
- 行送りぎょうおくり
- ある行の文字の底(ベースライン)から、次の行の文字の底までの距離。行の“すき間”ではなく、底から底までの一定の刻み。CSS の line-height が近い役目をする。
- 版面はんづら
- 外周の余白を引いた、実際に文字や図を置ける領域(紙の中身の面積)。
- 12カラム
- ページを12列に割る、Webの定番の分け方。2・3・4・6で割り切れて、多くの等分を一つの升目で扱える。
- プログラムprogramme
- ゲルストナーの用語。完成した一枚のレイアウトではなく、どんな中身も受け止める枠組み(規則)のこと。
- mobile gridモバイルグリッド
- ゲルストナーの可変の格子。一つの幅の中で1〜6カラムを切り替えられる、動く升目。
- CSS Grid
- 2017年に主要ブラウザへ入った、Webで縦横の升目を直接引いて部品を置くための機能。
- floatフロート
- もともとは画像のまわりに文字を回り込ませるための古いCSS指定。本来の用途を外れて、CSS Grid 以前は“升目のように並べる”代用にも使われた。
- 黄金のカノンgolden canon
- 中世写本に隠れていた美しい版面の割り付けを、比と作図で定めたもの。Tschichold が1953年に命名・再構成した。
- 機能主義きのうしゅぎ
- 飾りより「役に立つこと(正しく伝わること)」を第一に置く考え方。スイス様式の土台。
- ゲシュタルトGestalt
- 近くにあるもの・揃っているものを脳が勝手に「仲間」とまとめて見る働き。
- 写本しゃほん
- 印刷より前、手で書き写してつくった本。
- 活版かっぱん
- 金属の文字を一字ずつ並べて刷る、グーテンベルク以来の印刷方式。
- 客観的きゃっかんてき
- 作り手の気分や好みを混ぜず、誰が見ても同じに伝わること。
- カノンcanon
- 美しい紙面の作り方を図と比で定めた、昔の作図のきまり。
掟 RULES TO CITE
- 先に枠を決め、中身を後から従わせる。設計順序は「マージン → カラム数とガター → モジュールの行 → ベースライン」。前が決まらないと次は決められない
- カラム数は割り切れる数を選ぶ。Webの標準は12カラム(2・3・4・6で割れて列の組み合わせが効く)
- 本文の行送り(ある行の文字の底から次の行の文字の底までの距離。CSSの line-height が近い役目をする)を“ものさしの1目盛り”にし、見出しの大きさも要素どうしの余白もその整数倍にそろえる。複数カラムでも各行の底(ベースライン)を同じ横線にそろえる
- 要素の左端・幅・上端を、共通の格子線にぴたりと一致させる。ごくわずかなズレも許さない。その小さな不一致が積もると「散らかって見える」
- 位置を決めたら「気分」でなく「何カラム目・何モジュール目」で言えるか問う。言えないならまだグリッドに乗っていない
- 「整って見えない」ときは二択で疑う ― 左端がバラバラならカラムの崩れ、行間がまちまちならベースラインの崩れ。崩れた層を言えれば直し方は決まる
- CSSでは fr 単位・repeat()・minmax() で可変の格子を組み、要素を一つずつ置くのでなく“規則”を設計する(Gerstnerのmobile gridの思想)
典拠 SOURCES
- Josef Müller-Brockmann『Grid Systems in Graphic Design / Rastersysteme für die visuelle Gestaltung』(Niggli, 1981) ― モジュールグリッド方法論の聖典
- Karl Gerstner『Designing Programmes / Programme entwerfen』(Niggli, 1964) ― 可変の格子「mobile grid」とプログラムとしての設計
- Jan Tschichold ― 中世写本の調和的な版面比例を理論化(1953年に黄金のカノン=golden canon を命名・再構成。その内容を詳説した論考『Willkürfreie Maßverhältnisse der Buchseite und des Satzspiegels』は執筆1953/初出1962。論集は Birkhäuser, Basel 1975、英訳『The Form of the Book』Hartley & Marks, 1991)。1928年の『Die neue Typographie』とは別系統の戦後の仕事である点に注意
- Van de Graaf canon ― 中世写本のページ割り付けを幾何学的に定式化(マージン比 約1/9・2/9)。俗称「Villard de Honnecourt の作図(いわゆる Villard Diagram)」は、Tschichold(1953) がヴィラールの等分作図を黄金カノンの確証として援用したことに由来する後付けの帰属で、本人が版面割り付けとして残した確かな証拠はない(典拠主義の注意例)
- スイス様式(国際タイポグラフィ様式)/チューリッヒ・バーゼル派、1950年代 ― グリッドを「客観的・再現可能な伝達システム」の思想へ高めた
- 960 Grid System (Nathan Smith, 2008頃/12・16・24カラム版を提供) が選択肢を示し、Bootstrap (Otto & Thornton, 2011/940px・12カラム) が12カラムを採用して普及したことで、それが事実上の共通語として定着した ― スイスのカラムグリッドのWeb継承
- CSS Grid Layout Module Level 1 (W3C) ― 2017年初頭、主要ブラウザ(Firefox 52・Chrome 57・Safari 10.1)に約一ヶ月のあいだ相次いで搭載され、Gerstner の mobile grid が fr・repeat()・minmax() として実装された