タイポグラフィ編 / 4章 階層と強調

階層と強調

同じ大きさの文字が並ぶと、どこから読めばいいか分からない。サイズ・太さ・位置・色で文字に「序列(読む順番)」をつけると、読む前から地図が見える。タイプスケール(比率で大きさを決める)で恣意性を消し、強調は引き算で効かせる。

ねらい

一枚のチラシ、一つのWebページ。そこには「見出し」「本文」「注意書き」など、役割の違う文字がいくつも載っている。このとき大事なのは、読む前に「どこから読めばいいか」が分かることだ。これを作るのが、このクエストのテーマ「階層と強調」だ。

「階層」とは、文字に序列(読む順番・大事さの順)をつけること。「強調」とは、その中で特に目立たせたい一点を立てること。どちらも道具は同じ4つ――サイズ(大きさ)・ウェイト(太さ)・位置・色だ。

ねらいは三つ。①この4つで序列を作れるようになる。②大きさを「なんとなく」でなくタイプスケール(比率で決めるものさし)で決める。③強調は引き算でやる――目立たせたい所を「足す」のでなく、まわりを静かにして際立たせる。やりすぎると効かなくなる、その理由を最後に見る。

序列なし(全部同じ) 序列あり(順番が見える)
図1:左は全部同じ大きさで「どこから?」となる。右は大・中・小の差で読む順番が一目で分かる。

同じ大きさで並ぶと、人は迷子になる

まず、なぜ階層が要るのか。答えは人間の目の仕組みにある。

人はページを見るとき、最初の一瞬で「どこから読むか」を決める。文字を一字ずつ読むより先に、全体をパッと見て「大きいもの・濃いもの・目立つもの」に目をやる。これは意識ではなく反射だ。だから、もし全部の文字が同じ大きさ・同じ太さで並んでいると、目は「とっかかり」を見つけられない。どこから読めばいいか分からず、迷子になる。

ここで効いてくるのがゲシュタルト原則の一つ、類同(るいどう)だ。これは「見た目が同じものは、同じ仲間だと感じる」という人の知覚のクセ(→詳しくは準備編「ゲシュタルト原則」)。逆に言えば、見た目に差をつければ「これは別の役割だ」と伝わる。見出しを大きくするのは飾りではない。「ここは本文とは違う、章の入口だ」という意味を、差によって伝えているのだ。

「見た目が同じ」=「同じ仲間」に見える 全部そっくり 一かたまりに見える 1つだけ違う 真ん中だけ仲間外れに見える
図2:左は全部そっくり→ひとかたまりに見える(類同)。右は1つだけ色を変える→それだけ別役割に見える。差が役割の違いを生む。

序列をつくる4つの道具

では、どうやって差をつけるか。使える道具は4つある。サイズ・ウェイト・位置・色だ。一つずつ見ていく。

  • サイズ(大きさ) … いちばん強い。大きいものに最初に目が行く。見出しを本文より大きくするのが基本。
  • ウェイト(太さ) … 文字の線の太さ。**太い(Bold)**ほど黒っぽく見え、目を引く。サイズを変えずに差をつけたいときに効く。
  • 位置 … 上にあるもの・他から離れているものは「別格」に見える。見出しと本文のあいだを少し空けるだけで、関係が伝わる。
  • … 濃い・鮮やかな色は前に出て、薄い・くすんだ色は引っ込む。注意書きを灰色にすると「これは脇役」と伝わる。

コツは、全部いっぺんに使わないこと。サイズだけで足りるなら、太さも色もいじらない。差をつける道具を増やすほど、画面はうるさくなる。これは後の「強調は引き算」につながる大事な感覚だ。

サイズ 大  ウェイト(太さ) 太  位置(離す) 色(濃淡)
図3:4つの道具。どれも「目立つ=前、目立たない=後」を作る。まずサイズ、足りなければ他を少し足す。

見出しと本文 ―― 役割が違えば、見た目を変える

階層のいちばん基本の単位が、見出しと本文の差だ。

  • 見出し … その先に何が書いてあるかを示す「看板」。大きく・太く・短い。読者はここを飛ばし読みして、必要な場所を探す。
  • 本文 … 中身そのもの。落ち着いて読むので、読みやすさ最優先。大きすぎず小さすぎず、ぎっしりしすぎない。

この二つは役割がまるで違う。だから見た目もはっきり変える。中途半端に「ちょっとだけ大きい見出し」は、看板の役を果たせない。見出しは本文より明らかに大きく(または太く)するのが鉄則だ。差が小さいと、人の目は「同じ仲間(類同)」と判断してしまい、看板に見えない。

逆に、本文をむやみに大きく・太くするのもダメだ。本文は長く読むもの。太字が続くと黒っぽくて目が疲れるし、大きすぎると一行に入る字数が減って読みにくい。見出しは目立たせる、本文は読ませる――目的が違うことを忘れない。

× 差が小さい 見出しが看板に見えない ○ 差がはっきり 看板と中身が一目で分かれる
図4:見出しと本文は役割が逆。差は「はっきり」つける。中途半端な差は、かえって迷わせる。

タイプスケール ―― 大きさを比率で決める

ここが「恣意性を殺す」核心だ。見出しを24px、本文を16px、注意書きを13px……この数字は、どう決める?「なんとなく」で決めると、ここでも判断がブレる。一枚の中でちぐはぐになり、客に「なぜ24px?」と聞かれて答えられない(pxは画面の大きさを指定する単位)。

そこで使うのがタイプスケール(文字サイズのものさし)だ。やり方はシンプル。一つの基準サイズ(本文)を決め、そこに決まった比率を掛けて、大きいサイズを作っていく。たとえば比率を「1.25倍」と決めるなら、16px → 20px → 25px → 31px……と、掛け算で階段を作る。逆方向(小さい注意書き)は割り算でいい。

なぜ掛け算なのか。人の感覚は「足し算」でなく「比」で大きさを感じるからだ。同じ仕組みは音楽にもある。ドと、その1つ上のド(オクターブ上のド)は、音の高さがちょうど「2倍」の関係になっている。音楽でも、大きさ(高さ)は足し算でなく「倍」=比で決まっているのだ。だから、サイズも比でそろえると、階段の段差が目にそろって見え、全体が自然に調和する。バラバラの数字を並べたときの「なんか気持ち悪い」が消える。

基準16pxに1.25倍を掛けていく 16 20 25 31 39 ×1.25 ×1.25 ×1.25 ×1.25
図5:基準に同じ比率を掛け続けると、段差のそろった「サイズの階段」ができる。数字は比で決まるので恣意性が消える。

「サイズを決まった段でそろえる」という発想は、実は新しくない。ルネサンス期以降の活字(=昔の印刷で使った、1文字ずつの金属のハンコ。これを並べて紙に刷った)でも、文字サイズには規格の名前(Pica、Long Primer、Great Primer など)があり、ばらばらの連続値ではなく決まった号として飛び飛びに刻まれていた。ただし当時の号は、号どうしが比率できれいにそろっていたわけではない(鋳造所ごとに寸法もまちまちだった)。「比率で段差をそろえる」という発想そのものを与えたのは、近代になってからだ。デザイナーのTim Brownが2011年に「Modular Scale(モジュラースケール=比率で作るサイズの段)」という考えとツールを広め、Webで一気に定着した(タイプスケールの、Webでの呼び名だと思っていい)。比率の選び方は、**1.125(おとなしい)/1.25(標準)/1.333(メリハリ)/1.618(黄金比、ダイナミック)**あたりが定番だ。これらは modularscale.com などで定番として共有されてきた比率で、「なんとなくの4択」ではない。

強調は引き算 ―― 全部目立たせると、何も目立たない

最後に、いちばん間違えやすいところ。強調だ。

「ここ大事!」と思うと、人は文字を大きくし、太くし、赤くし、下線を引き、おまけに黄色マーカーまで重ねたくなる。気持ちは分かる。でも、これは逆効果だ。目立たせる手段を増やすほど、強調は弱くなる。

理由はこうだ。強調とは「まわりとの差」のこと。一文だけ赤いから、その赤が目立つ。でもページの半分が赤くなったら、もう赤は「ふつう」になり、差が消える。全部を強調するのは、全部の音を最大音量で鳴らすのと同じで、結局どれも聞こえなくなる。

だから鉄則はこうだ。強調したいなら、まわりを静かにする。一点を上げるのではなく、他を下げる。一つの文の中で本当に立てたい語は、ふつう1個か2個まで。そして、その一点には手段を一つだけ使う(太字だけ、か、色だけ)。重ね掛けは効果を打ち消す。引き算でやるほど、その一点は強く立つ。

× 全部を強調 どれも目立たない ○ 一点だけ強調 その一点が強く立つ
図6:強調は「差」。まわりを静かにするほど、残した一点が立つ。全部赤くすると赤は意味を失う。

この「引き算」の感覚には、太い歴史の裏付けがある。工業デザイナーディーター・ラムスの有名な言葉、**「Weniger, aber besser(より少なく、しかしより良く)」**だ。良いものは、足してではなく、削って生まれる。強調も同じ。何を消すかで、何が立つかが決まる。

見分け方・直し方

街やWebで「読みやすいな」と感じるページは、たいていこの順で作られている。逆に「なんか読みにくい・素人っぽい」ページは、ここが崩れている。チェックする目を持とう。

  • 3段くらいの段差があるか(見出し・本文・補足、くらいで十分。段が多すぎると逆に迷う)
  • サイズが比でそろっているか(飛び飛びでなく、掛け算の階段になっているか)
  • 見出しと本文の差がはっきりしているか(中途半端でないか)
  • 強調が少ないか(1ページに赤や太字が散らばっていないか)

もし「読みにくい」と感じたら、直し方は二つ。①段差をはっきりさせる(見出しをもっと大きく/太く)。②強調を減らす(太字や色を、本当に大事な一点だけ残して消す)。足すのではなく、メリハリを整え、余計を引く。これがこのクエストの結論だ。

大:見出し 中:本文 小:補足
図7:大・中・小の3段で十分に地図になる。段差は比でそろえ、強調は使わずに「大きさと濃さ」だけで序列を作っている。

譜例

棚(design-gallery)で、見出し・本文・補足の階層がはっきりした実例を見て、本文の話がどう現れているか確かめよう。

見るときは、図7のチェック(段差は3段くらいか/サイズは比でそろっているか/見出しと本文の差ははっきりか/強調は少ないか)を当てはめてみるとよい。

練習・チェック

  1. 身近なWebページかチラシを1つ選び、文字の「段」がいくつあるか数えてみよう。3〜4段くらいなら読みやすいはず。やたら多ければ、それが「読みにくさ」の原因かもしれない。
  2. タイプスケールを自分で1本作ってみよう。本文を16pxとして、比率1.25倍で大きい方を3段(20→25→31)計算してみる。電卓でいい。これが「恣意性を消す」体験になる。
  3. 自分の作ったスライドや資料で、太字・色・下線がいくつ使われているか数えてみよう。1ページに3つ以上あったら、いちばん大事な1つだけ残して、あとは消してみる。消すと、残した一点が強くなるのを体感しよう。

用語 GLOSSARY

階層かいそう
文字に「読む順番・大事さの順」をつけること。見出し→本文→補足のように、目で追う順番を作る。
強調きょうちょう
たくさんの文字の中で、特に目立たせたい一点を立てること。太字や色などで「ここを見て」と示す。
ウェイトweight
文字の線の太さのこと。太いもの(Bold=ボールド)ほど黒っぽく見えて目を引き、細いほど控えめに見える。
タイプスケールtype scale
文字サイズを決めるための「ものさし」。基準サイズに決まった比率を掛けて、大きさの階段を作る。
モジュラースケールmodular scale
タイプスケールの別名・具体形。一つの比率を掛け続けて作る、段差のそろったサイズの並び。Webでの呼び名だと思っていい。
比率ひりつ
二つの大きさを比べたときの倍率。例:1.25倍。サイズを足し算でなく掛け算でそろえるために使う。
類同similarity
ゲシュタルト原則の一つ。「見た目が似たものは同じ仲間だと感じる」という人の知覚のクセ。逆に差をつければ別の役割だと伝わる。
ゲシュタルト原則Gestalt principles
人が見たものをどうまとまりとして捉えるかを整理した、知覚の法則の集まり。近接・類同などがある。
見出しみだし
その先に何が書いてあるかを示す「看板」の文字。大きく短く、飛ばし読みの目印になる。
本文ほんぶん
中身そのものの文字。落ち着いて長く読むので、読みやすさを最優先にする。
活字かつじ
昔の印刷で使った、1文字ずつ彫った金属のハンコ。これを組んで紙に刷っていた。
px(ピクセル)pixel
Webで文字や画像の大きさを指定する単位。画面を作る小さな点の数で、例えば「16px」のように使う。
黄金比おうごんひ
約1.618という昔から「美しい」とされてきた比率。タイプスケールの比率としても使われ、段差が大きくダイナミックになる。

RULES TO CITE

  • 見出しは本文より「はっきり」大きく(または太く)する。ちょっとだけの差はダメ。差が小さいと人の目が「同じ仲間」と判断して、看板に見えないため(典拠1・4・6)
  • 文字サイズは「なんとなく」で決めず、本文を基準に決まった比率(1.125/1.25/1.333/1.618 などの定番比率から選ぶ)を掛けて階段を作る=タイプスケール。数字を比でそろえると段差がそろって調和する(典拠2・3)
  • 序列をつける道具はサイズ・ウェイト(太さ)・位置・色の4つ。まずサイズで試し、足りないときだけ他を少し足す。道具を増やすほど画面はうるさくなる(典拠5)
  • 段(階層)は3段くらいに収める。見出し・本文・補足で十分。段を増やしすぎると、かえってどこから読むか迷う(典拠1)
  • 強調は「足す」でなく「引く」でやる。一点を上げるのでなく、まわりを静かにする。本当に立てたい語は1文に1〜2個まで、手段は1つだけ(太字だけ、か色だけ)。重ね掛けは効果を打ち消す(典拠6)
  • 「読みにくい」と感じたら直し方は二つ。①見出しを大きく/太くして段差を強くする ②太字・色を本当に大事な一点だけ残して消す。足さず、整えて引く(典拠6)

典拠 SOURCES

  • Robert Bringhurst『The Elements of Typographic Style』(1992) ― 現代タイポグラフィの標準教科書。見出しと本文の差・サイズの段の付け方など、読みやすい階層の作り方の定義の典拠
  • ルネサンス期以降の金属活字におけるサイズの号数体系(Pica・Long Primer・Great Primer 等、名前の付いた飛び飛びのサイズ)― 文字サイズを連続値でなく決まった段(離散)で扱う伝統の源流。ただし当時は号どうしが比率できれいにそろってはおらず、鋳造所ごとに寸法もまちまちだった。比率で段差をそろえる発想そのものは近代のモジュラースケール(典拠3)が与えた
  • Tim Brown「More Meaningful Typography」(A List Apart, 2011) およびツール modularscale.com ― 比率でサイズを決める『モジュラースケール』をWebに広めた。1.125/1.25/1.333/1.618 などの定番比率は、ここで共有されてきたもの
  • ゲシュタルトの群化の法則のうち〈類同(similarity)〉― Max Wertheimer (1923) が体系化。見た目が似たものを同じ仲間と知覚する。差が役割の違いを伝える根拠(→詳しくは準備編「ゲシュタルト原則」)
  • Emil Ruder『Typographie』(1967) ― スイス・バーゼル造形学校の組版思想。コントラスト(差)が意味と読みやすさを生むという考えの典拠
  • Dieter Rams「Weniger, aber besser(より少なく、しかしより良く)」― 良いデザインの10原則(1970年代後半〜80年代)。強調を『引き算』で行う思想の裏付け

譜例(実例)

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