準備編 /

視線誘導 — F型・Z型と視覚的階層

人の視線はページ上を一定の癖で動く(F型・Z型)。なぜ左上が一番強いのか、なぜそうなるのかを文化と歴史から理解し、「先に見てほしいもの」へ目を導く視覚的階層の設計を身につける。

ねらい

あなたがWebサイトやチラシを作るとき、相手はそれを「上から順に、すみずみまで」読んでくれる——と思っていないだろうか。

残念ながら、人はそんなふうには見ない。視線は、決まったでページの上を滑っていく。たいてい数秒で「読むか、去るか」を決める。だからデザインの本当の仕事は、「全部を読ませる」ことではなく、限られた数秒で、先に見てほしいものへ目を導くことだ。

このクエストのねらいは二つ。一つ、人の視線が描く二つの典型ルート——F型Z型——を知ること。もう一つ、視覚的階層(見てほしい順に「強さ」の差をつける設計)で、その視線を意図的に操る方法を身につけることだ。

作る人の思い込み すみずみまで読む 実際の視線 拾い読み(F型)
図1:人は紙面を端から端まで読まない。決まった形で「拾い読み」する。

なぜ左上が一番強いのか — 文字を読む向きが体に染みている

すべての出発点は、たった一つの事実だ。日本語や英語は、左から右へ、上から下へ読む。

私たちは生まれてから何千冊もの本を、左上からスタートして読んできた。「ページを開いたら、まず左上を見る」——これは考える前に体が動く、染みついた習慣だ。だからWebでもチラシでも、人の目はまず無意識に左上へ飛ぶ。ここが最強の場所になる。

逆に言うと、右下は一番弱い。視線がたどり着く頃には、もう疲れているか、立ち去っているからだ。

最強 左上 最弱(右下) 読み 始め 下へ 行くほど弱い
図2:「左上から読む」習慣が、紙面に強さの地図を作る。濃いほど目が行きやすい。

大事なのは、これが世界共通ではないことだ。アラビア語のように右から左へ読む文化では、強い場所は右上になる。つまり「左上が強い」のは生まれつきの本能ではなく、読む向きという文化の産物。だからこのクエストの話は「左→右に読む文化のための設計」だと、頭の隅に置いておくといい。

F型 — 文章が多いページの視線

ここからは、その視線が実際に描く「形」を見る。一つ目がF型だ。これは文章が多いページ——ブログ、ニュース、検索結果、商品説明——で起きる。

人はこう動く。まず一番上の見出しを、左から右へざっと読む(Fの上の横棒)。次に少し下がって、二行目あたりをもう一度、でも今度は短く横へ読む(Fの下の横棒)。あとは興味が薄れて、左端を下へ縦になめるだけ。各行の頭だけを拾って、続きは読まない。これを線で結ぶと、アルファベットの「F」の形になる。

① 上を 長く横 ② 少し下を 短く横 ③ 左端を 下へ縦
図3:文章ページでの視線は「F」を描く。右側ほど読まれず、左端と上ほどよく見られる。

このF型は、思いつきではなく計測された事実だ。Webの使いやすさを研究するヤコブ・ニールセンらが、2006年にアイトラッキング(目の動きをカメラで追う実験)で232人を調べ、人の視線が繰り返しFの形を描くことを突き止めた。だからF型は「たぶんそう」ではなく「データでそうなっている」。

F型が教えてくれる掟はシンプルだ。大事な言葉は、行の左側・上の方に置け。 「詳しくはこちら」のような肝心の言葉を行の右の端に置くと、視線が届かず読まれない。見出しも、結論を頭に持ってくる。Fの濃い部分(上・左)に、伝えたいものを乗せるのだ。

Z型 — 要素が少ないページの視線

二つ目はZ型。これは文章が少なく、見るものが厳選されたページ——ポスター、トップページ、広告、ランディングページ(1枚で完結する宣伝ページ)——で起きる。

読む文章が少ないと、人は拾い読み(F型)をしない。代わりに面全体をざっと一筆書きで眺める。左上から右上へ(横)、そこから斜めに左下へ下りて、最後に左下から右下へ(横)。線で結ぶと「Z」になる。そしてZの終点=右下こそ、最後に目が止まる場所だ。なぜそこが効くのか。人は最後に見たものほど記憶に残りやすい。 Zをたどり終えた右下は、視線が一周して落ち着く“着地点”——だからここに置いた行動(ボタンや申し込み先)が印象に残り、押されやすくなる。「最後に押してほしいもの」は、ここに置くと効くのだ。

1 2 3 4 終点= 右下が効く
図4:要素が少ない面は「Z」を描く。終点の右下(4)に押してほしいボタンを置く。

このZ型の下敷きには、グーテンベルク図式(印刷物のページ上で視線がどう流れるかを図にした古典的な考え方。左上から右下へ流れるとされる)がある。タイポグラファーのエドモンド・アーノルドが1950年代に提示したものだ。ただし注意したい。この図式が本来扱うのは「序列のない、均質な文章の塊」の読み流れで、強弱(視覚的階層)がついた瞬間に当てはまらなくなる。「要素が少ない面はZ型」というのは、そこから派生してWebで広まった経験則だ。原義と派生を区別しておくと、誤解せずに使える。

F型とZ型は、どちらが正しいという話ではない。ページの中身で使い分ける。 文章が主役ならF型を想定し、左上に大事な言葉を寄せる。少ない要素を見せる1枚ものならZ型を想定し、右下に行動の出口を置く。「このページはどっちか?」を最初に決めるのが、設計の第一歩だ。

文章が多い → F型 ブログ・記事・検索結果 大事な語は左・上へ 右端には置かない 要素が少ない → Z型 ポスター・トップ・広告 出口(ボタン)は右下へ 視線の終点を使う
図5:F型・Z型の使い分けまとめ。まず「文章が多いか・要素が少ないか」を見て、想定するルートを決める。

視覚的階層 — 視線は「ルート」だけでなく「強さの差」で動く

ここまでは「視線は左上から動く」という、いわばデフォルトのルートの話だった。だが本当に強力なのは、その先だ。デザイナーは、このルートを上書きできる。 その道具が視覚的階層——見てほしい順に、要素へ「強さ」の差をつけることだ。

人の目には、もう一つの強い習慣がある。まわりと違うもの・大きいもの・目立つものに、先に飛ぶ。 たとえ右下にあっても、そこだけ大きくて真っ赤なら、左上より先に見られる。つまり視線は「位置」と「強さ」の合わせ技で動く。位置の癖(F・Z)に、強さの差(階層)を重ねて操るのだ。

強さの差は、主に四つの手で作る。

  • 大きさ — 大きいものほど先に、強く見える。一番見てほしいものを一番大きく。
  • 濃さ・色 — まわりが地味な中の鮮やかな一色、薄い中の濃い一個は、目を引く。
  • 余白 — まわりを広く空けると、その要素が孤立して目立つ。空白は「強調する道具」でもある。
  • 位置 — F・Zの濃い場所(左上・Zの終点)に置くと、さらに後押しできる。
階層なし(全部同じ強さ) どこを見ればいいか迷う 階層あり(強さに差) 見る順が一目で決まる
図6:全部同じ強さだと目が迷う。大きさ・色・余白で差をつけると、見る順が生まれる。

なぜ「差をつける」と階層ができるのか。それはコントラスト——要素どうしの差(大きさ・濃さ・色の差)——の働きだ。差があるところに、意味と順序が生まれる。逆に全部が同じ強さだと、目はどこから見ればいいか分からず迷う。これを「フラット(強弱がなく全部同じ)で読めないページ」と言う。強弱がない=階層がない=視線が迷子になる、ということだ。

この「目立つもの(図)が背景(地)から浮き出る」という見え方は、人の脳に最初から備わったクセだ。準備編の最初「ゲシュタルト原則」で学ぶ図と地(図=手前の主役/地=背景)の働きで、それを最初に確立したのはデンマークの心理学者エドガー・ルビン(1915)。視覚的階層は、この脳のクセを味方につけて「どれを図にするか」を設計することだ。

三段で考える — 見出し・本文・行動

実際の設計では、要素を三つの段に分けて考えると、迷わない。

  1. 一番上の段 … 真っ先に見てほしいもの。多くは見出しや主役の写真。一番大きく・強くする。
  2. 真ん中の段 … 補足や本文。読む人だけが読めばいい。控えめにする。
  3. 行動の段 … 押してほしいボタンや申し込み先。目立つ色で最後に効かせる

この三段に、位置(F・Z)を重ねる。たとえば1枚ものなら——主役(1段目)を左上に大きく、本文(2段目)を中央に控えめに、ボタン(3段目)をZの終点・右下に鮮やかに。すると視線は「主役 → 説明 → ボタン」と、あなたの引いたレールの上を素直に流れていく。

① 見出し(最大) ② 本文 (控えめ) ③ ボタン 最初 最後
図7:見出し→本文→ボタンの三段に強弱をつけ、位置(左上・右下)と重ねて視線を導く。

見分け方・直し方

最後に、自分や他人の作ったものを「視線で診断」する目を持とう。

ページを開いた瞬間、目を細めて1秒だけ見る。このとき最初に飛び込んでくるものが、あなたが一番見てほしいものになっているか。なっていれば成功。もし「全部ぼんやり同じ」「変なところが一番目立つ」なら、階層が壊れている。

直し方は決まっている。

  • 目が迷うなら → 要素の強弱を増やす(一番大事なものを、もっと大きく・濃く)。
  • 大事なものが読まれないなら → 位置を疑う。右端・右下に隠れていないか。左上やZの終点へ動かす。
  • 全部が目立って騒がしいなら → 引く。目立たせる要素は一つに絞る。全部を強調すると、何も強調されない。
目を細めて1秒テスト × 何も浮かばない=迷う ○ 一つ浮かぶ=階層が効く
図8:目を細めて1秒。最初に浮かぶものが「見せたいもの」なら成功。何も浮かばなければ階層を足す。

視線誘導は、難しい話ではない。人は左上から、決まった形(F・Z)で見る。だから大事なものをその通り道に、強さの差(階層)をつけて置く。 たったこれだけだ。あとは「目を細めて1秒」で確かめながら、レールを引き直していけばいい。

譜例

棚(design-gallery)で実例を見て、本文の話がどう現れているか確かめよう。サイトを開いたら、まず「目を細めて1秒テスト」をやってみるといい。

見るときは、(1)このページはF型かZ型か、(2)目を細めて最初に浮かぶのは何か、(3)それは作り手が一番見せたいものか、の3つを言葉にしてみよう。

練習・チェック

  1. 身近なWebサイトかチラシを1つ選び、まず「文章が多い(F型)/要素が少ない(Z型)」のどちらかを判定しよう。
  2. 同じものを「目を細めて1秒」見る。最初に浮かんだものは、作り手が一番見せたいものと一致しているか。
  3. もしズレていたら、原因を「位置(右端・右下に隠れている)」か「強さ(大きさ・色の差が足りない)」のどちらかに絞り、直す手を一つ言葉にしてみよう。

用語 GLOSSARY

視線誘導しせんゆうどう
見る人の目を、設計者が見てほしい順番・場所へ意図的に導くこと。
F型エフがた
文章が多いページで起きる視線の動き。上を長く横、少し下を短く横、左端を縦に読む形がアルファベットのFに似ている。
Z型ゼットがた
要素が少ないページで起きる視線の動き。左上→右上→左下→右下とZの字を描く。終点の右下が最後に目の止まる場所。
視覚的階層しかくてきかいそう
見てほしい順に、要素へ『強さ』の差(大きさ・色・余白)をつける設計。これで見る順が生まれる。
アイトラッキングeye tracking
カメラで目の動きを追い、人が画面のどこをどんな順で見ているかを計測する実験手法。
ランディングページlanding page
広告などから来た人が最初に着地する、1枚で完結する宣伝ページ。申し込みやボタンへ導くのが目的。
コントラストcontrast
要素どうしの『差』のこと。大きさ・色・濃さの差。差があるところに意味と順序が生まれる。
フラットflat
ここでは『強弱がなく全部同じ強さ』の状態。階層がないので目がどこを見ればいいか迷う。
余白よはく
要素のまわりの空いた空間。広く取ると、その要素が孤立して目立つ。強調する道具にもなる。
図と地ずとじ
人が画面を見るとき、手前に浮き出て見える主役(図)と、背景に引っ込む部分(地)に自然と分けて見ること。目立たせたいものを『図』にするのがデザインの基本。
ゲシュタルト心理学Gestalt
人は世界を部品の寄せ集めではなく『まとまった全体』として見る、と考える心理学。1912年ドイツ(フランクフルト)で創始、1920年代に発展・体系化された。『目立つ図/背景の地』が分かれる法則などの土台。
グーテンベルク図式Gutenberg Diagram
印刷物のページ上で視線がどう流れるかを図にした古典的な考え方。左上から右下へ流れるとされ、その流れがZ型の下敷きになった。
拾い読みひろいよみ
全文を読まず、見出しや行頭など目立つ所だけを拾って読むこと。Web閲覧の標準的な読み方。

RULES TO CITE

  • まず『このページは文章が多いか(F型)/要素が少ないか(Z型)』を最初に決める。設計は全部そこから始める
  • (F型=文章が多い面では)一番見てほしい言葉・要素を左上(読み始め)に置く。肝心の言葉を右端・右下に置かない――視線が届かないため
  • (Z型=要素が少ない面では)押してほしいボタンや申し込み先を、終点=右下に置く。視線が最後に止まる場所を出口にする
  • 要素を三段に分ける――①見出し(最大・最強)②本文(控えめ)③ボタン(目立つ色で最後に効かせる)。この強弱の差が視覚的階層になる
  • 強さの差は大きさ・色(濃さ)・余白の3つで作る。一番見せたいものを一番大きく・濃く、まわりを広く空けて孤立させる
  • 目立たせる要素は1つに絞る。全部を強調すると、何も強調されないのと同じになる
  • 完成したら『目を細めて1秒』見る。最初に浮かぶものが一番見せたいものなら成功。何も浮かばなければ強弱を足す

典拠 SOURCES

  • Jakob Nielsen(Nielsen Norman Group)『F-Shaped Pattern for Reading Web Content』(2006) ― 232人のアイトラッキング実験でF型の読み方を実証
  • Kara Pernice(Nielsen Norman Group)『F-Shaped Pattern of Reading on the Web: Misunderstood, But Still Relevant (Even on Mobile)』(2017) ― F型の再検証と、階層が弱いページほどF型が強く出るという知見
  • Steve Krug『Don't Make Me Think』(2000) ― 人はページを読まず『拾い読み(scan)』するという原則の普及
  • 視覚的階層(visual hierarchy)の土台:図と地(figure-ground、図=手前の主役/地=背景)の分化は Edgar Rubin(1915)が確立、近接・類同など群化の法則は Max Wertheimer(1923)。ともに「大きさ・差異で目立つもの(図)が背景(地)から浮き出る」知覚の土台(詳細は準備編「ゲシュタルト原則」へ)
  • 『Z型/Zパターン』の下敷きはグーテンベルク図式(Gutenberg Diagram。タイポグラファー Edmund C. Arnold が1950年代に提示)― 本来は序列のない均質な文章の読み流れを説明したもの。そこから派生し、要素を絞った面に当てはめる経験則としてWebに広まった

譜例(実例)

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