色彩編 / 3章 役割と比率

役割と比率

画面の色は「何色使うか」ではなく「どの役に何色を割り当て、どれだけの面積を与えるか」で決まる。ベース・メイン・アクセントの3役と目安70:25:5を、なぜ強い色ほど狭くするのか――ゲーテとイッテンの面積対比から理由ごと理解する。

ねらい

配色でいちばんよくある失敗は、「色を選ぶこと」だと思い込むことだ。きれいな色を3つ4つ並べたのに、なぜか画面がうるさい、安っぽい、まとまらない――その原因はほとんど、色の選び方ではなく配り方にある。

このクエストのねらいは一つ。色を「足すもの」から「役に割り当てて配分するもの」へ、頭を切りかえること。具体的には、画面の色を3つの役割――ベース(地)・メイン(主役)・アクセント(差し色)――に分け、それぞれにどれだけの面積を与えるかで考える。前章で習った補色や類似は、ここで「どの役に置くか」という形で実戦投入される。

よくある発想 「何色を選ぶか」 色を足していく このクエスト 「どの役に・どれだけ」 役を決めて面積を配る
図1:上達の分かれ目。色そのものより、役割と面積の配分で考える。

色は「数」ではなく「役」で考える

まず一番大事な考え方を握る。画面の中の色は、何色あるかではなく、それぞれが何の役を果たしているかで見る。

役は3つだ。

  • ベース(地) … 画面の大部分を占める、背景・土台の色。いちばん広い。たいてい白・生成り(きなり=染めていない布のような薄い黄みがかった白)・薄いグレーなど、おとなしい色。
  • メイン(主役) … そのデザインの「顔」になる色。ブランドの色、見出しや主要な面に使う色。ベースの次に広い。
  • アクセント(差し色) … いちばん狭いのに、いちばん目立つ色。「ここを押せ」「ここを見ろ」を伝えるボタンやリンクに使う。

ここが直感に反するところだ。面積がいちばん小さいアクセントが、いちばん強い色になる。広い色は静かで、狭い色は強い。色の強さと面積は、わざと逆にする。

ベース(地・最大面積) メイン アクセント 広い=静か 中くらい 面積が小さいほど、色は強くしてよい(むしろ強くする)
図2:3役を面積で並べる。右へ行くほど狭く、強くなる。アクセントは細いのに一番目立つ。

なぜ「数」で考えてはいけないのか。「3色まで」のような数のルールは、配分を教えてくれないからだ。同じ赤・白・黒でも、赤が画面の半分なら警告音だらけのうるさい画面になり、赤が5%なら洗練された一枚になる。色が同じでも、面積が違えば別物になる。だから数ではなく役と面積で考える。

なぜ強い色ほど面積を狭くするのか(歴史)

ここが理屈の心臓だ。「強い色は狭く」は、誰かの好みではない。200年前の観察に根がある。

1810年、ドイツの文豪ゲーテ(あの『ファウスト』の作者だ)は『色彩論』という本で、色には見た目の“強さ・重さ”がそれぞれ違うと書いた。そして後の時代、その強さに数字をふったのがイッテン(後で出てくる)だ。もとはゲーテが**“その色の明るさ”**として測った値で、明るい色ほど目に強く効く――だから黄色は「9」と強く、暗い紫は「3」と弱い、となる。黄色は少しでも目に飛び込んでくるが、紫はおとなしい。

すると面白い結論が出る。強い色と弱い色を“同じ面積”で並べると、釣り合わない。 強い黄色がうるさく勝ってしまう。釣り合わせるには、強い色を狭く、弱い色を広くするしかない。考え方はかんたんで、強さが3倍なら、面積を1/3にすればちょうど釣り合う。だから黄1に対し紫3、という面積比になる。ゲーテは黄と紫なら「1:3」くらいの面積比で釣り合う、とした。

同じ面積(釣り合わない) 強い色 弱い色 強い色がうるさく勝つ 面積を変える(釣り合う) 狭く 弱い色を広く 強さ×面積で釣り合う
図3:強い色ほど狭くすると、画面の中で力が釣り合う。これがゲーテの観察。

この観察を、デザインの理論としてきれいに整理したのがヨハネス・イッテンだ。彼はあのバウハウス(機能を最優先したドイツの造形学校。様式編で出てくる)で色彩を教えた人で、著書『色彩論(色彩の芸術)』(1961年)で、色の対比を7種類に分けた。その一つが面積対比――「色は、面積の大きさによって効き方が変わる」という法則だ。強い色は小さく使え、弱い色は大きく使え。これがアクセントを「狭く・強く」する理屈の正体だ。

ゲーテ 1810 色に強さの差がある イッテン 1961 面積対比に整理 → 強い色は 狭く使う 「アクセントは狭く・強く」は気分ではなく、200年の観察に基づく
図4:ゲーテの観察→イッテンの理論→現代の掟。理由ごと持てば応用が利く。

70:25:5 ―― 目安であって、法則ではない

役が3つに分かれたら、次は「どれくらいの面積で配るか」。ここでよく出てくるのが70:25:5(あるいは60:30:10)という比率だ。ベース約70、メイン約25、アクセント約5。

正直に言う。この数字そのものに、絶対の根拠はない。 これは主にインテリア(部屋づくり)の世界で長く使われてきた経験則だ――やってみて上手くいった積み重ねから来る目安だ。壁を一番広く、家具を次に、クッションや小物で差し色を少し――その配分が落ち着いて見えた、という積み重ねから来ている。誰が何年に決めた、という厳密な出典は、はっきりしない。だから「70:25:5でなければならない」というのは嘘だ。68でも72でも、まとまっていれば正解だ。

ベース 約70 メイン 約25 5 比率は“目安”。大事なのは数字より「大・中・小の差がはっきりある」こと 60:30:10 でも可。きっちり守る数字ではない
図5:70:25:5の配分バー。狙いは正確な数字ではなく、3役の面積に「はっきりした差」をつけること。

ではなぜ、こんな“あいまいな数字”をわざわざ覚えるのか。比率を守ること自体が目的ではなく、「3役の面積に大きな差をつける」という方向を体に入れるためだ。初心者がやりがちなのは、3色をだいたい同じ面積でばらまくこと(33:33:33に近い配分)。これをやると、どれが主役か分からず、画面がガチャガチャになる。70:25:5は「そんなに差をつけていいんだ」という感覚を与えてくれる、いわば補助輪だ。だからこのクエストでは、数字そのものより「強い差をつける」という思想の方を覚えてほしい。必然ではない数字を、必然のように振りかざさない――これも典拠主義の誠実さだ。

× だいたい均等(主役不明) ガチャガチャ・うるさい ○ はっきり差をつける 主役が立つ・落ち着く
図6:同じ3色でも、均等だと散らかり、差をつけると主役が立つ。狙いは「差」。

前章の補色・類似を、どの役に割り当てるか

ここで前章(色相環と配色)とつながる。まず言葉を二つだけ思い出そう。補色とは、色相環(色を輪に並べた図)で正反対にある色どうしのこと。類似色とは、色相環で隣どうしにある近い色のことだ。補色や類似で色を選んだら、次はそれを3役に配る。組み合わせは、ざっくり次のように考えると外さない。

  • ベース … ほぼ無彩色(=白・黒・グレーのような色味のない色)か、メインをうんと薄めた色。主張させない。
  • メイン … ブランドの主役色。ここで世界観が決まる。
  • アクセント … メインの補色(色相環の正反対の色)を置くと、最大のコントラスト(色の差)で一番目立つ。だからボタンやリンクに最適。

逆に、メインとアクセントを類似色(色相環で隣どうしの色)にすると、ぶつからず上品にまとまるが、差し色のインパクトは弱まる。強く目立たせたいなら補色、穏やかにまとめたいなら類似――前章の知識が、ここで役割の言葉に翻訳される。

メインの補色をアクセントに 最大コントラスト=強く目立つ 青の主役に正反対の橙を差す 類似色でまとめる 穏やか・上品にまとまる 隣どうしの青と青緑でなじむ
図7:選んだ色を役に配る。左は青の補色(橙)をアクセントに置いて最も目立たせ、右は隣どうしの青と青緑でそろえて穏やかにする。

注意が一つ。アクセントは1つに絞るのが基本だ。差し色が2色3色あると、「ここを見ろ」が複数になって、結局どこも目立たない。一番強い色は、画面で一つの仕事(最重要の行動を促す)だけに使う。これが「最小面積で一番目立つ」を活かすコツだ。

設計の順番 ―― 足すのではなく、配る

最後に、実際の手順に落とす。色を「足していく」のをやめ、「役を決めて配る」に切りかえる。順番はこうだ。

  1. ベースを決める(まず地の色。たいてい白か薄いグレー。ここは静かに)
  2. メインを1色決める(主役。世界観を背負う色)
  3. アクセントを1色決める(メインの補色など。最小面積で、最重要の場所だけに)
  4. 面積で差をつける(おおよそ大・中・小。70:25:5は目安)

この順で組むと、色数が自然と絞られ、主役がはっきりする。「なんかうるさい」ときの直し方も決まっている――色を足すのではなく、役のはみ出しを疑う。アクセントが広すぎないか? メインが地まで侵食していないか? たいてい原因は「強い色の面積オーバー」だ。引いて配分を戻すと直る。

1 ベース 地を静かに 2 メイン 主役1色 3 アクセント 差し色1色 4 面積で差 大・中・小 色は「足す」のではなく、役を決めて「配る」 うるさい時は足さず、強い色の面積オーバーを疑う
図8:4ステップで配る。直すときも「足す」より先に「配分を戻す」。

見分け方

街やWebで、配色が「うまい」一枚を見たら、3役で読み解いてみよう。

  • 画面の大部分を占める、おとなしいベースは何色か(たいてい白・グレー系)
  • 世界観を背負うメインは何色か(1色のはず)
  • 一番狭いのに一番目立つアクセントはどこか(ボタン・リンク・重要な数字など、1か所のはず)

この3つがきれいに見つかれば、それは「役割と比率」で設計された一枚だ。逆に、強い色が画面のあちこちに同じくらいの面積で散っていたら、たいてい「うるさい」と感じるはず。色の良し悪しは、選んだ色より、配った面積で決まる――この目を持てば、配色は感覚ではなく設計になる。

「うまい一枚」を3役で指さす練習 ベース=広い白地 メイン=1色(黒の見出し) アクセント=1か所だけ
図9:よくある整った一枚。広い白地=ベース、1色の見出し=メイン、ボタン1個分の赤=アクセント。実際に指さして見つける練習を。

譜例

棚(design-gallery)で配色の実例を見て、本文の3役(ベース/メイン/アクセント)と、おおよその面積比を読み解いてみよう。

見るときは、「一番広いベースは何色か」「世界観を背負うメインは何色か(1色のはず)」「一番狭いのに一番目立つアクセントはどこか(1か所のはず)」の3つを、実際に指さして当ててみるとよい。

練習・チェック

  1. 身近なWebサイトを1つ選び、ベース・メイン・アクセントの3役と、それぞれおおよその面積(大・中・小)を当ててみよう。アクセントが1か所にきれいに絞られていれば、それは「役割と比率」で設計された一枚だ。
  2. なぜ強い色ほど面積を狭くするのかを、一文で言えるか。(ヒント:色には見た目の強さの差があり、強さ×面積で釣り合わせる)
  3. 友達の作ったチラシやスライドが「なんかうるさい」とき、色を足さずに直してみよう。強い色(アクセントやメイン)の面積が広がりすぎていないかを疑い、配分を大・中・小に戻すのが先だ。

用語 GLOSSARY

役割(色の役割)やくわり
画面の中で、その色が果たしている仕事のこと。地なのか、主役なのか、差し色なのか。色を「数」でなく「役」で見るための考え方。
ベースbase
画面の大部分を占める、背景・土台になる色。いちばん広く、たいてい白やグレーなどおとなしい色を使う。
メインmain
そのデザインの「顔」になる主役の色。ブランド色や主要な面に使い、世界観を決める。ベースの次に広い。
アクセント(差し色)accent
いちばん狭いのに、いちばん目立つ色。「ここを押せ・ここを見ろ」を伝えるボタンやリンクに使う。
面積(色の面積)めんせき
ある色が画面でどれだけの広さを占めているか。同じ色でも面積が変われば効き方がまるで変わる、配色の最重要要素。
面積対比めんせきたいひ
イッテンが整理した色の対比の一つ。色は面積の大小で効き方が変わるので、強い色は小さく・弱い色は大きく使う、という法則。
70:25:5(60:30:10)
ベース・メイン・アクセントの面積配分の目安。約7割・約2.5割・約0.5割。守るべき法則ではなく「差をつける」方向を体に入れる補助輪。
経験則けいけんそく
理屈で証明されたのではなく、多くの人が実際にやってみて「こうすると上手くいく」と分かった、積み重ねから来る目安。法則ほど厳密ではない。
補色ほしょく
色相環(色を輪に並べた図)で正反対にある色どうし。並べると最大のコントラストになり、強く目立つ。アクセント向き。
類似色るいじしょく
色相環で隣どうしにある近い色。並べてもぶつからず、穏やかで上品にまとまる。
色相環しきそうかん
色(赤・黄・青…)を順番に輪のように並べた図。前章で習った、補色や類似を見つけるための地図。
無彩色むさいしょく
白・黒・グレーのような、色味(赤み・青みなど)を持たない色。主張しないのでベースに向く。
コントラストcontrast
色や明るさの「差」のこと。差が大きいほど目立ち、小さいほど穏やかになる。
生成りきなり
染めていない布のような、薄く黄みがかった白。真っ白よりやわらかく、ベースに向く。
ゲーテGoethe
ドイツの文豪(『ファウスト』の作者)。1810年『色彩論』で、色ごとに見た目の強さが違うと観察し、面積比の考えの元を作った。
イッテンItten
バウハウスで色彩を教えた人。1961年『色彩論』で色の対比を7種に整理し、その一つが面積対比。
バウハウスBauhaus
1919年ドイツに開かれた、機能を最優先する造形学校。近代デザインの土台を作った(様式編で詳しく扱う)。

RULES TO CITE

  • 画面の色は「何色使うか」ではなく、ベース(地)・メイン(主役)・アクセント(差し色)の3役のどれかに割り当てて考える(典拠2・3)
  • 強い色ほど面積を狭くする。一番強い色はアクセントに回し、画面のごく一部だけに使う――広い色は静か、狭い色は強い(典拠1・2)
  • 面積はベース約70:メイン約25:アクセント約5を目安にする。ただしこれは目安。大事なのは数字より「3役の面積にはっきり差をつける」こと(典拠4)
  • アクセントは1色・1か所に絞る。差し色が増えると「ここを見ろ」がぼやけて、結局どこも目立たない(典拠2)
  • 強く目立たせたいアクセントには、メインの補色(色相環の正反対)を置く。穏やかにまとめたいなら類似色にする(前章=色相環)
  • 色は「足す」のではなく「役を決めて配る」。ベース→メイン→アクセントの順で決め、最後に面積で差をつける
  • 「なんかうるさい」ときは色を足さず、強い色の面積オーバーを疑う。アクセントやメインが広がりすぎていないか配分を戻す

典拠 SOURCES

  • Johann Wolfgang von Goethe『Zur Farbenlehre(色彩論)』(1810) ― 色ごとに見た目の強さ・重さが違い、釣り合わせるには面積を変える必要があるという観察。後にイッテンがこの強さを数値化(黄9・紫3など)し面積比へ展開した。面積比の最古の根拠
  • Johannes Itten『Kunst der Farbe(色彩論/英題 The Art of Color)』(1961) ― 色の7対比の一つ「面積対比(contrast of extension/proportion)」。ゲーテの色の重さを継いで『強い色は狭く使う』を理論化
  • Johannes Itten ― バウハウス(1919年開校)で初期(1919–1922)に基礎課程=色彩予備課程(Vorkurs)を担当。色彩理論をデザイン教育の体系に組み込んだ人物
  • 60-30-10ルール(70:25:5) ― 主にインテリアデザインで長く使われてきた経験則。壁・家具・小物の面積配分の慣習に由来。厳密な発案者・年は特定されておらず、必然の法則ではなく目安である点に注意

譜例(実例)

棚:配色の実例を見る ↗