色彩編 / 5章 コントラストと色覚
コントラストと色覚(WCAGとアクセシビリティ)
読めるかどうかは色相ではなく明度差(コントラスト)で決まる。色の見え方は人によって違うから、色だけに意味を頼らない。WCAGのコントラスト比という客観基準で、誰でも読める配色へ。
ねらい
きれいな配色を作れても、肝心の文字が読めなければデザインは仕事をしていない。「読める/読めない」を決めているのは、色の鮮やかさでも、色の名前でもない。明るさの差だ。
このクエストのねらいは二つ。一つ、読みやすさの正体がコントラスト(差)――それも明度差(明るさの差)だと体で分かること。二つ、人によって色の見え方が違うこと(色覚多様性)を知り、「色だけに意味を頼らない」という掟を持つこと。最後に、WCAGという世界共通の客観基準で、感覚に頼らず「これは読める」と言い切れるようになる。
ここは準備編「コントラストと階層」の色版であり、色彩編の締めくくりだ。これまで学んだ配色を、最後に「誰にでも届くか」で検品する回だと思ってほしい。
なぜ「色」では足りないのか ―― 明るさが先、色は後
まず、人の目の仕組みから入る。理由が分かると、掟が暗記でなく道具になる。
目の奥には、光を受け取る2種類のセンサーがある。杆体(かんたい)と錐体(すいたい)だ。杆体は明るさを感じる係で、数が圧倒的に多く、感度も高い。錐体は色を感じる係で、数は少ない。つまり人の視覚は、もともと「明るさを見る力」が主役で、「色を見る力」は脇役なのだ(典拠3)。
だから結論はこうなる。文字と背景を見分けてもらいたいなら、色を変えるより、明るさを離すのが正解だ。赤と緑のように「色の名前」がまるで違っても、明るさが近いと、ぼやけて読みにくい。逆に、白と黒のように色味がなくても、明るさが大きく離れていれば、くっきり読める。
ここで一つ、明度という言葉を押さえる。明度とは「その色の明るさの度合い」のこと。同じ赤でも、白に近い淡い赤は明度が高く、黒に近い濃い赤は明度が低い。読みやすさの主役は、この明度の差だ。
確かめ方 ―― 「グレーにして見る」
理屈は分かった。では自分の配色が大丈夫か、どう確かめるか。最強で最も簡単な方法がある。色を全部消して、白黒(グレースケール)にしてみることだ。
色を抜いても文字がちゃんと読めるなら、それは「明度差で読めている」証拠。合格だ。逆に、グレーにした瞬間に文字が背景に溶けて消えるなら、それは「色の違いだけに頼っていた」サイン。色の見分けが苦手な人や、まぶしい屋外でスマホを見る人には、最初から読めていない。
なぜこの方法が効くのか。さっき見たとおり、人の目の主役は「明るさのセンサー」だ。グレースケールは、その主役だけを残して脇役(色)を消す操作にあたる。つまり「色の助けがなくても読めるか」を、わざと厳しい条件で試している。これが通れば、たいていの環境で読める。
色覚は人によって違う ―― 色覚多様性
ここからが、このクエストの核心だ。「自分には読める」は、まったく当てにならない。なぜなら、色の見え方は人によって違うからだ。
目の奥の錐体(色のセンサー)は、本来3種類あって、ざっくり「赤・緑・青」をそれぞれ担当する。ところが、生まれつきこのうちの一つが弱い、または無い人が一定の割合でいる。とくに多いのが、赤と緑が見分けにくいタイプだ。これは病気でも異常でもなく、人類にもとからある多様性――だから近年は色覚多様性と呼ぶ(このタイプを、従来は色弱とも呼んできた)。
数字を押さえよう。日本では男性のおよそ20人に1人(約5%)、女性のおよそ500人に1人がこのタイプにあたる(典拠4)。クラスに男子が20人いれば、平均して1人。けっして珍しくない。あなたのサイトを見る100人のうち、何人かは「赤と緑が見分けにくい」人だと考えるのが現実的だ。
この色覚多様性が科学的に記述されたのは、意外に古い。化学者ジョン・ドルトンが1794年に発表(出版は1798年)した報告がそれで、彼自身が当事者だった。英語では色覚異常を、彼の名から「ダルトニズム」と呼ぶ(典拠5)。
この人たちに、赤と緑はどう見えるか。たとえば「赤字で必須、緑字で任意」と色だけで区別したフォーム。世界が白黒に見えるわけではない――色は見えている。ただ、赤と緑という特定の2色だけが似た色に見え、しかも明るさも近いと、区別がつかなくなる。「ここが赤いから危険、って言われても、どこが赤いのか分からない」――これが日常的に起きている。
だから、第3節のグレースケール検品が効く理由もここにある。グレースケールは色を全部消す、いちばん厳しい条件だ。色を消しても明度差で読めている配色なら、色の見分けが苦手な人にも届く。検品は厳しい側で行う、という考え方だ。
ここで一点だけ正確に。「色弱なら赤と緑が必ず区別できない」わけではない。区別がつきにくいのは、赤と緑で、かつ明るさ(明度)も近いときだ。逆に言えば、赤と緑を使っても明るさを大きく離せば、見分けられる余地は残る。これは次の節の掟(明るさを大きく変える・形や文字も足す)の根拠になる。
だから「色だけに頼らない」 ―― 形・位置・文字を足す
ここから掟が出る。意味を色だけに載せない。色は「おまけの目印」であって、「唯一の目印」にしてはいけない。色に加えて、**形・位置・文字(ラベルやアイコン)**でも同じ意味を伝える。これを本書では「二重符号化(同じ意味を二つの手段でだぶらせること)」と呼ぶ。アクセシビリティの実務では、これを「色だけに頼らない」原則(WCAGの達成基準1.4.1)と呼んでいる(典拠1)。
例を見よう。グラフで線を色だけで区別すると、見分けにくい人には全部同じ線になる。そこで、線の種類(実線・点線)を変える、線に直接ラベルを付ける、印の形を変える。すると、色が分からなくても情報が届く。信号機が、色だけでなく並ぶ位置でも決まっているのは、まさにこの知恵だ(縦型なら赤が上、横型でも赤の位置が決まっている)。
身近な掟に落とすと、こうだ。リンクは色を変えるだけでなく下線も引く。エラーは赤くするだけでなく**「!」マークや「必須」の文字も出す。地図で塗り分けるなら、色に加えて模様や文字も入れる。どれも「色が伝わらなくても意味が残る」ための保険だ。色を捨てるのではない。色にもう一つの伝え方を相棒として付ける**のだ。
客観基準 ―― WCAGのコントラスト比
最後に、典拠主義の真骨頂。「明るさを離せ」と言われても、「どれくらい?」が分からなければ気分のままだ。ここに客観的な物差しがある。WCAG(ウェブ・コンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)のコントラスト比だ。WCAGはそもそも、Webのアクセシビリティ――年齢や体の状態にかかわらず誰もが使えること――を実現するための指針である。
WCAGは、文字色と背景色の明るさ(正確には輝度という、物理的に測れる明るさ)の差を計算して、1:1 から 21:1 までの比で表す。1:1 は「まったく同じ=読めない」、21:1 は「黒と白=最大」。数字が大きいほど読みやすい。そして合格ラインがはっきり決まっている。
- 本文(小さい文字):4.5:1 以上
- 大きい文字(おおむね24px以上、または太字18.66px以上):3:1 以上
「24px・18.66px」という半端な数字には理由がある。これはWCAGが定める「大きい文字」の境目で、もとは印刷の単位pt(ポイント)で18pt・太字14ptと決まっている。それをWeb(px)に直すと、この数字になる。暗記すべき呪文ではなく、換算の結果だ。
そしてこの2つの合格ラインは、どちらもWCAGの同じ達成基準**1.4.3(Contrast Minimum)**に書かれている(典拠1)。「なんとなく濃いめ」ではなく、計算で出る数値だから、誰がやっても同じ答えになる。序論で立てた「感覚でなく根拠で決める」という姿勢の、色における実装がこれだ。
使い方は簡単だ。自分で計算する必要はない。コントラストチェッカーという無料ツール(ブラウザで「contrast checker」で出てくる)に文字色と背景色を入れると、比と「合格/不合格」が即座に出る。デザインツールにも同じ機能が入っていることが多い。だから手順はこうなる――配色を決めたら、最後にチェッカーに通す。これだけで「読めるかどうか」を主観から外せる。
なお、なぜ感覚に頼らず数値で確かめるのか。同じ色でも、周囲の色によって明るさは違って見えるからだ(これを示す有名な例がチェッカーシャドウ錯視。同じ灰色が、周りしだいで濃くも淡くも見える/典拠6)。目はだまされる。だから最後は数値で裏を取る。
WCAGは思いつきのルールではない。世界の標準を決める団体W3Cが、専門家の知見を集めて作った国際的なガイドラインだ(典拠1)。だから「なぜ4.5:1なの?」と問われても、「W3CのWCAG達成基準1.4.3に基づく」と即答できる。これが典拠を持つ強さだ。(ちなみに、ボタンの枠やアイコンなど“文字でない要素”の輪郭にも別途3:1という基準があり、それは達成基準1.4.11が定めている。混同しやすいので分けて覚えるとよい。)
見分け方 ―― この配色は誰にでも届くか
最後に、自分の配色を検品する目を持とう。次の4つを順に通せば、「読めるかどうか」を感覚から切り離せる。
- グレーにしても文字が読めるか(色を抜いて消えないか/図4)
- 意味を色だけに載せていないか(形・位置・文字でも伝えているか/図7)
- 赤と緑だけで区別していないか(最も見分けにくい組み合わせ/図6)
- コントラスト比は合格か(本文4.5:1・大きい字3:1/図8)
これら4つは別々のルールではなく、すべて一つの思想から出ている――読みやすさは作り手ではなく読者が決める。自分に見えることは、誰かに見えることを保証しない。だからこそ、計算(WCAG)と検品(グレースケール・二重符号化)という客観の道具を最後に通す。色彩編はここで一周する。きれいな色を選ぶ力に、「その色が誰にでも届くか」を確かめる力を足して、ようやく配色は仕事になる。
譜例
棚(design-gallery)で実例を見て、本文の4つの検品ポイントがどう守られているか確かめよう。とくに、リンクに下線があるか、エラー表示が色以外でも分かるか、本文と背景の明度差を見てほしい。
練習・チェック
- 自分のスマホで好きなサイトを1つ開き、設定の「グレースケール(色を消す)」表示をオンにしてみよう。文字やボタンが、ちゃんと読めるまま残るか。消えたものがあれば、それは色だけに頼っていた箇所だ。
- なぜ「赤と緑」の組み合わせが、とくに気をつけるべきなのか。一文で言えるか。(ヒント:何人に1人が、どんなときに見分けにくいか)
- 自分が最近選んだ「文字色と背景色」を一組、無料のコントラストチェッカーに入れてみよう。本文なら4.5:1を超えているか。超えていなければ、文字を濃くするか背景を明るくして、合格させてみよう。
用語 GLOSSARY
- コントラストcontrast
- 二つのものの差のこと。デザインでは特に、文字色と背景色の「差」を指す。読みやすさの土台。
- 明度めいど
- その色の明るさの度合い。同じ赤でも、白に近ければ明度が高く、黒に近ければ明度が低い。読みやすさの主役。
- 明度差めいどさ
- 二つの色の明るさの違い。これが大きいほど文字と背景を見分けやすい。色の名前の違いより重要。
- 杆体かんたい
- 目の奥にあって明るさを感じるセンサー。数が多く感度も高い。だから視覚は明るさが主役。
- 錐体すいたい
- 目の奥にあって色を感じるセンサー。本来は赤・緑・青の3種類で、数は杆体より少ない。
- グレースケールgrayscale
- 色を全部抜いて、明るさだけの白黒にした状態。配色が明度差で読めているかを試す検品法に使う。
- 色覚多様性しきかくたようせい
- 色の見え方が人によって違うこと。一部の人は錐体の一つが弱く、特に赤と緑が見分けにくい。病気ではなく多様性。日本では男性の約20人に1人(約5%)がこのタイプ。
- 色弱しきじゃく
- 色覚多様性のうち、特定の色(多くは赤と緑)が見分けにくいタイプの、従来からの呼び方。世界が白黒に見えるわけではなく、その2色だけが似て見える。
- 二重符号化にじゅうふごうか
- 同じ意味を、色だけでなく形・位置・文字など二つ以上の手段で伝えること。一般には「色だけに頼らない」原則(WCAG 1.4.1 Use of Color)と呼ばれ、本書ではしくみを“二つの手段でだぶらせる”と噛み砕いた。
- WCAGダブリューシーエージー
- Webを誰にでも使えるようにするための国際ガイドライン。コントラスト比の合格ラインなどを定める。W3Cが策定。
- コントラスト比contrast ratio
- 文字色と背景色の明るさの差を1:1〜21:1の数値で表したもの。本文は4.5:1以上、大きい字は3:1以上が合格。
- 輝度きど
- 物理的に測れる“明るさ”の量。WCAGのコントラスト比は、人が感じる明度ではなく、この輝度から計算される。噛み砕けば「明るさ」だが、厳密には別物。
- コントラストチェッカーcontrast checker
- 2色を入れるとコントラスト比と合格/不合格を即座に出してくれる無料ツール。配色の最終検品に使う。
- W3Cダブリュースリーシー
- World Wide Web Consortium。Webの世界共通ルールを決める国際団体。WCAGを作っている。
- アクセシビリティaccessibility
- 年齢や体の状態(色覚・視力など)にかかわらず、誰もが情報やサービスを使えること。WCAGが目指すもの。
掟 RULES TO CITE
- 文字と背景は「色」より「明るさ」で離す。色の名前が違っても、明るさ(明度)が近いと読みにくい(典拠2・3)
- 配色を決めたら、いったんグレースケール(白黒)にして確かめる。文字が消えたら不合格――色だけに頼っている証拠なので作り直す(典拠3)
- 意味を色だけに載せない。色に加えて、形・位置・文字(下線・アイコン・ラベル)でも同じ意味を伝える(典拠1の達成基準1.4.1)
- 赤と緑「だけ」で区別しない。男性の約20人に1人が見分けにくい。どうしても使うなら明るさを大きく変え、形や文字も足す(典拠4)
- 本文の文字色と背景色は、コントラスト比4.5:1以上にする。大きい文字(24px以上/太字18.66px以上)は3:1以上(典拠1)
- 可読性は感覚で決めない。最後に無料のコントラストチェッカーに2色を入れ、合格の数値を確認してから確定する(典拠1)
典拠 SOURCES
- W3C『Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.0』(2008)/WCAG 2.1 (2018) ― コントラスト比の客観基準の典拠。本文4.5:1も大きい文字3:1も達成基準1.4.3(Contrast Minimum, WCAG2.0で確立)。色だけに頼らない原則は1.4.1(Use of Color)。UI部品やグラフなど“テキスト以外”の3:1は1.4.11(Non-text Contrast, WCAG2.1で新設)。比の最大値は21:1
- 三色説(Trichromatic theory)― Thomas Young (1802) が提唱し、Hermann von Helmholtz が1850年代(1852年の論文)に発展させ、1867年『生理光学ハンドブック(Handbook of Physiological Optics)』で体系化 ― 色覚が赤・緑・青の3種の錐体に基づくという土台
- 杆体・錐体の役割分担と、明るさ知覚が主役であること ― 視覚生理学の標準的知見(網膜の二種の光受容体)。実際の数は錐体 約600万/杆体 約1.2億で、杆体が桁違いに多い
- 色覚多様性の頻度:日本人男性の約5%(約20人に1人)、女性の約0.2%(約500人に1人)― 日本眼科医会ほかが示す一般的な統計
- John Dalton が1794年に発表(出版は1798年, Memoirs of the Lit. & Phil. Society of Manchester vol.5)『Extraordinary facts relating to the vision of colours』― 色覚多様性を初めて科学的に記述(自身が当事者)。英語で色覚異常を Daltonism と呼ぶ語源
- 色覚シミュレーション(ある色覚の人にどう見えるかを再現する計算法)― Brettel・Viénot らのアルゴリズム (1990年代) / Edward H. Adelson のチェッカーシャドウ錯視 (1995) ― 明度の知覚が周囲の文脈で大きく変わることを示し、明度差を“感覚でなく数値”で確かめる必要性を裏づける