UI/UX編 / 1章 ユーザビリティの原則
ユーザビリティの原則
使いやすさは感覚ではなく原則で測れる。ノーマンのアフォーダンス・シグニファイア・対応づけ・フィードバックと、ニールセンの10経験則を「何への反作用か」という歴史から学ぶ。土台は三つの動詞――迷わせない・間違えさせない・今どこか分かる。
ねらい
「このサイト、なんか使いにくい」。誰でも一度は言ったことがあるはずだ。でも、どこが・なぜ使いにくいのかを一言で説明できる人は少ない。多くの人は「使いやすさ=センス」「人それぞれの感覚」だと思っている。
このクエストのねらいは、その思い込みを壊すこと。使いやすさは、感覚ではなく原則で測れる。 押せそうに見えるボタンが良くて、引くドアに「押す」と書いてあるのが悪い――それには、ちゃんとした理由と名前がある。その名前を覚えれば、「なんか使いにくい」が「ここの対応づけが逆だ」に変わる。原因を言葉にできれば、直せる。
なお、操作のしやすさを数式で測るフィッツの法則(ボタンは大きく近いほど押しやすい、など)やヒックの法則(選択肢が多いほど迷う)は、このクエストでは扱わない。別クエストにまわす。ここでは、まず「人とモノの間に何が起きているか」を言葉にする道具をそろえる。
何への反作用だったか ―― 「人間が悪い」をやめる
新しい考え方は、いつも前の常識への反発から生まれる。ユーザビリティ(使いやすさ)の原則も同じだ。
1980年代まで、機械が使いにくいとき、人々はこう言われていた。「使う人間が悪い」。操作を間違えたら「ちゃんと説明書を読まないから」「不注意だから」。エラーは、いつも人間のせいにされた。
ここに一人の認知科学者(人の頭の働きを研究する人)が異を唱える。ドナルド・ノーマンだ。彼は1988年の著書『誰のためのデザイン?』(原題 The Design of Everyday Things)で、まったく逆のことを言った。彼の主張を一言でまとめると、こうなる。
人が間違えるのは、人が悪いからではない。そう間違えるように作られたモノが悪い。
つまり、責任を人間からモノ(デザイン)へひっくり返した。これがユーザビリティの出発点だ。使いにくさは、使う人の能力の問題ではなく、作り手の設計の問題――この一歩から、すべての原則が生まれる。
アフォーダンスとシグニファイア ―― モノが使い方を語る
ノーマンの一番有名な道具がアフォーダンスだ。アフォーダンスとは、モノが「こう使えますよ」と教えてくれる手がかりのこと。
例を見よう。平らな板が貼ってあるドアは「押す」と語る。取っ手の付いたドアは「引く」と語る。椅子は「座れる」と語る。あなたは説明書を読まずに、形を見ただけで使い方が分かる。これがアフォーダンスだ。良いデザインは、説明しなくても形が使い方を語る。
そして、その手がかりをわざと付け足したものをシグニファイア(合図・しるし)と呼ぶ。たとえばボタンに付ける「影」や「ふくらみ」。これは「ここは押せますよ」という合図だ。Webには取っ手のような実物がないから、シグニファイアがとくに大事になる。押せそうに見える=押せる、が守られているボタンは、良いデザインだ。
ここで継承の話を一つ。じつは「アフォーダンス」はノーマンの発明ではない。もとは知覚を研究する心理学者ジェームズ・ギブソンが1979年に使った言葉で、ノーマンがそれをデザインに持ち込んだ。さらにこの言葉は「形が語る手がかり」と「わざと付けた合図」が混ざって誤解されやすかった。そこでノーマンは2008年に「シグニファイア」という言い方を打ち出し、2013年の改訂版でこれを中心の道具として前に出した。つまり、二つの言葉は別々の発明ではなく、継承して研ぎ澄まされたものだ。
対応づけ(マッピング)とノーマンのドア
次の道具が対応づけ(英語でマッピング)。操作する場所と、その結果が、見た目どおり素直に対応していることだ。
身近な例はコンロ。4つの火口と4つのつまみが、画面の上で同じ並びになっていれば、どのつまみがどの火口かを迷わず選べる。これが「対応づけが良い」。逆に、つまみが一列に並んでいて、どれがどの火口か分からないコンロは「対応づけが悪い」。あなたが鍋を焦がしたのは、あなたが悪いのではなく、対応づけが悪いのだ。
この対応づけの失敗を、いちばん有名に表したのが「ノーマンのドア」だ。引かないと開かないのに、平らな板が付いていて「押す」と語っているドア。 形(押せ)と本当の動作(引け)が逆になっている。人は形を信じて押し、開かず、戸惑う。そこに「PUSH(押す)」という貼り紙が足してある――これは負けの証拠だ。形だけで伝わらなかったから、文字で言い訳しているのだ。良いデザインは、貼り紙が要らない。
フィードバック ―― 「ちゃんと届いた?」に応える
四つめの道具がフィードバック(反応・手応え)。何か操作したら、その結果がすぐ返ってくることだ。
エレベーターのボタンを押すと光る。あれがフィードバックだ。もし光らなかったら、あなたは「効いた?」と不安になり、もう一度押す。Webも同じ。ボタンを押したのに何も起きないと、人は不安になって連打する。すると同じ注文が二回飛んだりする。
だから、操作には必ず手応えを返す。押した瞬間に色を変える。読み込み中はくるくる回るしるし(スピナー)を出す。送信できたら「送信しました」と出す。人を不安にさせない、それがフィードバックの仕事だ。手応えが無い操作は、暗闇でスイッチを探すのと同じだ。
ニールセンの10の経験則 ―― みんなで検査するチェックリスト
ノーマンが「なぜ使いにくいか」を考える土台を作った。では、出来上がった画面をどう点検するか。ここで登場するのが、ノーマンの同僚でもあるヤコブ・ニールセンだ。のちに二人は、使いやすさを研究・指導する会社 Nielsen Norman Group(NN/g)(1998年設立)を作り、この分野を引っぱっていく。
ニールセンは1994年、使いやすさを点検するための**10個の経験則(ヒューリスティック)**をまとめた。「経験則」とは、長年の経験から導いた、だいたい正しい目安のこと。厳密な法則ではないが、これに照らせば問題の大半が見つかる。だから一人の感覚に頼らず、誰でも同じ目で画面を検査できる。気分を規則に変える、という発想だ。
10個全部は多いので、まず特に効く5つを挙げる。残り5つもまずは覚えなくていい。
- システム状態を見せる ―― いま何が起きているか、どこにいるかを常に見せる(フィードバックの仲間)。
- 現実の言葉で話す ―― 専門用語でなく、ふだんの言葉や見慣れた形を使う。
- 取り消せる自由 ―― 間違えても戻れる。「ひとつ戻す」や「キャンセル」をいつも用意する。
- 一貫性を守る ―― 同じものは同じ見た目・同じ言葉に。ページごとにボタンの形を変えない。
- そもそも間違えさせない ―― エラーが出てから直すより、起きない作りにする(危険な操作には確認を挟む等)。
残りの5つ――無駄を省く・覚えなくても使える・ベテラン向けの近道・エラーが出ても直し方が分かる説明・困ったとき用のヘルプ――も、ぜんぶ「迷わせない・間違えさせない」の仲間だ。だから、まずは効くこの5つを覚えれば十分。深入りは別クエストにまわす。
まとめ ―― 土台は三つの動詞
ノーマンの4つの道具(アフォーダンス・シグニファイア・対応づけ・フィードバック)も、ニールセンの10経験則も、突き詰めるとたった三つを守るための工夫だ。
迷わせない・間違えさせない・今どこか分かる。 これがユーザビリティの土台だ。
- 今どこか分かる = 状態を見せる(フィードバック/経験則①)。
- 迷わせない = 形が使い方を語る(アフォーダンス・対応づけ/現実の言葉・一貫性)。
- 間違えさせない = 起きない作りと、戻れる自由(エラー予防・取り消し)。
迷うのは案内が悪いから。間違えるのは作りが悪いから。今どこか分からないのは手応えが無いから。どれも使う人の責任ではなく、作り手の責任だ――ノーマンが1988年にひっくり返した、あの一点に戻ってくる。
見分け方
最後に、画面を「使いやすいか」検査する目を持とう。次を一つずつ問うていく。
- ボタンは押せそうに見えるか(アフォーダンス・シグニファイア)
- 操作と結果が素直に対応しているか(対応づけ。ノーマンのドアになっていないか)
- 押したら手応えが返るか(フィードバック)
- 間違えても戻れるか(取り消しの自由)
- 今どこにいるか分かるか(状態の可視化)
- 同じものは同じ顔か(一貫性)
一つでも「いいえ」があれば、そこが「なんか使いにくい」の正体だ。感覚ではなく、原則の名前で指させる。指させれば、直せる。
譜例
棚(design-gallery)で実例を見て、本文の原則がどう現れているか確かめよう。良いボタン(押せそうに見える)、状態の見せ方、エラーの防ぎ方に注目するとよい。
練習・チェック
- 身のまわりで「ノーマンのドア」を一つ探そう。押すのか引くのか形で分からないドア、貼り紙で言い訳しているドアだ。見つけたら「形」と「本当の動作」がどう逆になっているか言ってみよう。
- よく使うアプリやサイトを一つ開き、図9の6つを順に「○か×か」で問うてみよう。「×」が出た場所が、改善点だ。
- 友達が「このサイト使いにくい」と言ったとき、「どこが?」ではなく、6つのどれが欠けているかを一緒に当ててみよう。感覚を原則の言葉に翻訳する練習になる。
用語 GLOSSARY
- ユーザビリティusability
- 使いやすさのこと。迷わず・間違えず・今どこか分かって操作できるかで測る、製品やサイトの性質。
- アフォーダンスaffordance
- モノの形そのものが「こう使えますよ」と教えてくれる手がかり。取っ手を見れば引くと分かる、あの働き。
- シグニファイアsignifier
- 使い方を示すために、わざと付け足した合図やしるし。ボタンの影やふくらみ=「押せます」という合図。
- 対応づけ(マッピング)mapping
- 操作する場所と、その結果が、見た目どおり素直につながっていること。つまみの並びと火口の並びがそろっている、など。
- フィードバックfeedback
- 何か操作したとき、その結果がすぐ返ってくること。ボタンが光る・「送信しました」と出る、など。手応えのこと。
- ノーマンのドアNorman door
- 形が「押せ」と語るのに本当は引くドアのように、見た目と本当の動作が逆になった、使いにくいデザインの代表例。
- ヒューリスティック(経験則)heuristic
- 長年の経験から導いた、だいたい正しい目安。厳密な法則ではないが、これに照らすと問題の大半が見つかる。
- 認知科学cognitive science
- 人の頭がどう考え・覚え・間違えるかを研究する学問。ノーマンはこの立場から使いやすさを論じた。
- 状態の可視化じょうたいのかしか
- 今どこにいて何が起きているかを、常に画面に見せること。ニールセンの経験則の一つめ。
- 一貫性いっかんせい
- 同じ意味のものを、同じ見た目・同じ言葉でそろえること。ページごとにボタンの形を変えない、など。
- エラー予防error prevention
- 間違いが起きてから直すのではなく、そもそも起きない作りにすること。危険な操作に確認を挟む、など。
- スピナーspinner
- 処理中であることを示す、くるくる回る小さなしるし。「いま動いていますよ」というフィードバックの一種。
- Nielsen Norman Group(NN/g)
- ノーマンとニールセンが1998年に作った、使いやすさを研究・指導する会社。いまも「使いやすさといえばここ」の総本山。
掟 RULES TO CITE
- ボタンは「押せそうに見える」状態にする。影・ふくらみ・色などの合図(シグニファイア)を必ず付け、ただの文字に見えるボタンを作らない(典拠1)
- 操作する場所と結果を、見た目どおり素直に対応させる(対応づけ)。形が「押せ」と語るなら本当に押せるようにし、ノーマンのドア(形と動作が逆)を作らない(典拠1)
- 操作には必ず手応え(フィードバック)を返す。押した瞬間に色を変え、処理中はしるしを出し、終わったら結果を表示する。無反応で人を不安にさせない(典拠1・2)
- 間違いは「起きてから直す」より「起きない作り」を優先する。危険な操作には確認を挟み、それでも間違えたとき用に「取り消し・キャンセル」を必ず置く(典拠2)
- 同じ意味のものは同じ見た目・同じ言葉にそろえる(一貫性)。ページごとにボタンの形や言葉を変えない(典拠2)
- 今どこにいて何が起きているかを常に画面に見せる(状態の可視化)。専門用語でなく、ふだんの言葉で伝える(典拠2)
- 迷ったら三つの動詞に戻す――迷わせない・間違えさせない・今どこか分かる。使いにくさは使う人でなく作り手の責任として直す(典拠1)
典拠 SOURCES
- Donald A. Norman『The Design of Everyday Things』(原著初版『The Psychology of Everyday Things』1988年、改題・増補版2013年) ― アフォーダンス・シグニファイア・対応づけ・フィードバックの提示
- Jakob Nielsen「10 Usability Heuristics for User Interface Design」(1994年。原型は Nielsen & Molich 1990、10項目への確定が1994年) ― ユーザビリティ点検の10の経験則(ヒューリスティック)