UI/UX編 / 3章 インタラクションパターン
インタラクションパターン
UIには「みんなが知っている型」がある=インタラクションパターン。発明より踏襲が、使う人の覚え直す手間(学習コスト)を消す(典拠主義そのもの)。記憶より認識・フィッツの法則・ヒックの法則を土台に、型を知り「いつ破るか」を理由で選ぶ。
ねらい
世界中どの国の車でも、ハンドルは「丸くて、右に回せば右に曲がる」。誰も説明書を読まない。乗った瞬間、もう運転できる。これは「型」がみんなで共有されているからだ。
UI(ユーアイ=画面のうち、人が触って操作する部分)にも、これとまったく同じ「みんなが知っている型」がある。これをインタラクションパターンと呼ぶ。三本線のボタン(ハンバーガーメニュー)、画面に重なって出る小窓(モーダル)、切り替えの見出し(タブ)――どれも、初めて見ても「あ、これは押すとメニューが出るやつだ」と分かる。
このクエストのねらいは一つ。「自分で新しい操作方法を発明したくなる気持ちを、ぐっとこらえる」理由を、理屈ごと身につけること。なぜ発明より真似(踏襲)が正しいのか。なぜ「思い出させる」より「見せて選ばせる」のか。そして、型を知ったうえで「いつ破っていいか」を、自分で判断できるようになることだ。
ちなみに、使いやすさそのものの土台(押せそうに見えるボタン・手応え・取り消しなど、ノーマンとニールセンの原則)は、すでに前のクエスト「ユーザビリティの原則」で扱った。ここではその先――「みんなが知っている型」をどう使い、いつ破るか――に絞る。
そもそも「繰り返し出てくる問題には、決まった良い解がある。それをパターンと呼ぼう」と最初に言ったのは、建築家のクリストファー・アレグザンダー(1977年)だ。彼は街や建物の作り方を観察し、「いい部屋には共通の作り方がある」と気づいた。その考えが、のちにソフトウェアやUIの世界へ受け継がれ、いま私たちが言う「インタラクションパターン」になった。型は誰かの思いつきではなく、受け継がれてきた知恵なのだ。
型とは何か ―― 言葉が通じるのと同じこと
そもそも「型」とは何だろう。一言でいうと、「この見た目なら、こう動く」という、みんなの間でできあがった約束のことだ。
たとえば日本語。「みかん」と言えば、相手の頭にあのオレンジ色の果物が浮かぶ。これは「み・か・ん」という音と、あの果物が、社会の中で結びついているからだ。もし君が今日から、みかんを「ぽぽん」と呼び始めたらどうなる? 誰にも通じない。毎回「ぽぽんっていうのはみかんのことで…」と説明しなければならない。
UIもまったく同じだ。「三本線のボタン=メニューが開く」は、もう世界中で通じる約束になっている。これを君が勝手に「メニューは四角を5個並べたボタンで開く」と決めたら、それは「みかんをぽぽんと呼ぶ」のと同じこと。誰にも通じず、毎回説明がいる。
なぜ「発明」より「踏襲」なのか ―― コストを誰が払うか
ここがこのクエストの核心だ。デザインを始めたばかりの人は、よく「人と違うオリジナルな操作」を作りたがる。だが、これはたいてい失敗する。理由をはっきりさせよう。
新しい操作方法を作るということは、「使う人に、新しく覚え直してもらう」ということだ。この「覚える手間」を、専門的には学習コストと呼ぶ。問題は、そのコストを払うのが、作った君ではなく、何万人もの使う人たちだということ。君が1つ発明するたび、使う人全員が、1つずつ余計に覚えさせられる。
これを正面から言葉にしたのが、ヤコブ・ニールセンの**「ヤコブの法則」(2000年)だ。中身はこうだ。「使う人は、君のサイト以外で、ほとんどの時間を過ごしている。だから、すでに知っている他のサイトと同じ動き方を期待する」。** 言いかえれば、人は他の何千ものサイトで「三本線=メニュー」をもう覚えてきた。なら、君のサイトもそれに合わせるのが一番やさしい。これは「合わせろ」という押しつけではなく、使う人がすでに持っている知識を、ただで借りるという話だ。
ここで楽典(このデザイン理論全体)の背骨を思い出そう。「デザインは発明ではなく継承」――先人が積み上げた型をそのまま引き継ぎ、その上に乗る。インタラクションパターンは、この考え方が一番はっきり出る場所だ。すでに世界が「三本線=メニュー」を覚えてくれている。なら、それにただ乗りすればいい。タダで使える便利な約束を、わざわざ捨てて自作する理由はない。
記憶より認識 ―― 思い出させず、見せて選ばせる
型がなぜ効くのか、その裏には人の頭のしくみがある。キーワードは**「記憶より認識」**だ(英語では recognition over recall。recognition=見て気づく が、recall=思い出す に勝る、という意味)。これはニールセンの「使いやすさ10原則」の6番目にも入っている、確かな原則だ。
人の頭には、二つのモードがある。
- 記憶(リコール)…何も手がかりがない所から、思い出すこと。「ええと、メニューを出すコマンドは何だったかな…」と頭の中を探す。これはしんどい。
- 認識(レコグニション)…目の前に選択肢があって、「あ、これだ」と気づくこと。メニューの一覧を見て選ぶ。これは楽だ。
英単語のテストで言えば、記憶は「日本語だけ見て英語を書く」、認識は「4択から選ぶ」。後者がずっと簡単なのは、君も知っているはずだ。良いUIは、人に思い出させない。代わりに、選べるように見せる。 だから三本線を押すと、機能の名前を打ち込ませるのではなく、メニューを一覧で「見せて、選ばせる」。型(パターン)は、この「認識」を助ける道具でもある。見慣れた形だから、考えずに「あ、これだ」と気づける。
主なパターンの一覧 ―― よく使う型たち
具体的な型をいくつか見ておこう。これらは「覚える」というより「もう知っている」はずだ。それこそが、型が型である証拠だ。
- ハンバーガーメニュー…三本線のボタン。押すとメニューが出る。三本線がハンバーガーのパンと具に見えるから、この名がついた。
- モーダル…今の画面の上に重なって出る小窓。閉じるまで後ろは操作できない。「これに答えてから次へ」と、注意を一点に集める型。
- タブ…見出しを横に並べ、押すと中身が切り替わる。ノートの仕切り(インデックス)と同じ発想。
- プルダウン(ドロップダウン)…押すと下に選択肢がベロンと開くメニュー。たくさんの選択肢を、ふだんは畳んでおける。
- 無限スクロール…下へスクロールし続けると、次々と中身が自動で読み込まれる。SNSのタイムラインでおなじみ。
- トースト…画面の隅に少しだけ出て、すぐ消える小さな通知。「保存しました」など、邪魔せず知らせる型。
大事なのは、これらが**「誰かの思いつき」ではなく、長年使われて生き残った定番**だということ。生き残ったのには理由がある。だから、まずはこの定番を引く。これらをカタログ(型録)としてまとめて見せたのが、ジェニファー・ティドウェルの『Designing Interfaces』だ。料理人がレシピ集を持つように、デザイナーは型のカタログを持つ。
フィッツの法則 ―― 的は大きく、近くに
型を選ぶときも、型を置くときも、土台になる人の体のしくみが二つある。一つ目がフィッツの法則だ。
中身はとても素直で、こうだ。「押したい的(ボタンなど)は、大きいほど・近いほど、速く正確に押せる」。 小さくて遠い的は、狙うのに時間がかかり、押し間違える。当たり前に聞こえるが、これは1954年に心理学者ポール・フィッツが実験で数式にまで落とした、れっきとした法則だ。
これが効く場面は山ほどある。スマホの大事なボタンは大きく、親指の届く下のほうに置く。逆に「削除」のような押してほしくないボタンは、わざと小さく・遠くに置く。パソコン画面の四隅も、じつは超押しやすい。なぜか。画面の端は、マウスがそれ以上外へ出られない“壁”になっている。 だから多少勢いよくカーソルを飛ばしても、必ず端で止まって当たる。つまり、見た目は小さくても「外さない的」=実質、的がうんと大きいのと同じになる。だからメニューバーは画面のてっぺん(=端)にある。型を画面のどこに、どんな大きさで置くか。その答えの多くは、この法則が握っている。
ヒックの法則 ―― 選択肢が多いほど迷う
二つ目がヒックの法則だ。こちらも素直で、「選択肢が多いほど、人は選ぶのに時間がかかる(迷う)」。 1952年に心理学者ウィリアム・ヒックが示し、翌1953年にレイ・ハイマンが「効いているのは“数”ではなく“情報の多さ”だ」と一般化した。だから2人の名をとって**「ヒック=ハイマンの法則」**とも呼ぶ。用語集や典拠に「ハイマン」が出てくるのは、このためだ。
レストランのメニューを思い出せばいい。料理が5品なら、すぐ決まる。50品あると、にらめっこして決められなくなる。UIも同じで、ボタンや項目を画面にズラッと並べるほど、使う人は固まる。
ここで面白いのが、さっき出た型たちは、実はこのヒックの法則と戦うための道具でもある、ということ。プルダウンは、ふだん選択肢を畳んで隠し、必要なときだけ開く――だから画面はいつもスッキリしている。タブは、たくさんの中身を仕切って、一度に見せる量を減らす。ハンバーガーメニューも、メニュー全部をしまっておく型だ。型は「見た目の約束」であると同時に、選択肢を減らして迷いを消す工夫でもある。
いつ型を破るか ―― 知ったうえで、理由をもって外す
ここまで「型を守れ、発明するな」と言ってきた。では型は絶対か。違う。型は知ったうえで、理由があれば破っていい。 ただし順番が大事だ。ジャズの名手が、基本のコードを完璧に覚えてから、わざと外して崩すのと同じ。何を外しているか分かっているから、崩しが効く。知らずに外したものは、ただの間違いにしか見えない。
では、目の前の「型を破りたい気持ち」が、効く崩しなのか、ただの未熟なのか。見分ける問いはたった一つだ。
その型で“困る具体的な理由”を、一言で言えるか?
言えるなら――それは理由のある崩しだ。たとえば無限スクロールは便利だが、「最後まで読んだ感」が出ない。だから検索結果のように“ゴール”が要る画面では、ページ送り(1・2・3…)のほうがいいことがある。これは「無限スクロールだと終わりが分からなくて困る」と理由を一言で言えている。だから外していい。
言えないなら――つまり理由が「なんか人と違うのを作りたいから」しか出てこないなら、それは図3で見た「使う人全員に学習コストを押し付ける」をやっているだけだ。個性ではなく、ただの未熟になる。
判断の順番はいつもこうだ。①まず定番の型を引く → ②その型で困る具体的な理由が出たときだけ、理由をもって外す。 順番が逆――いきなり破る――だと、それは個性ではなく、ただの未熟になる。
見分け方
最後に、君が触っているアプリやサイトが「型をちゃんと使えているか」を見抜く目を持とう。次を確かめるといい。
- メニューや操作が、世界共通の型(三本線・タブ・モーダルなど)で作られているか。自作の謎記号になっていないか。
- 大事なボタンが大きく・押しやすい場所にあるか(フィッツの法則)。
- 一度に見せる選択肢を絞っているか。ズラッと並べて迷わせていないか(ヒックの法則)。
- 機能を思い出させていないか。ちゃんと見せて選ばせているか(記憶より認識)。
- もし型を破っている所があれば、それは理由のある破り方か。それとも、ただ目立ちたいだけか。
これらは別々のルールではなく、すべて**「使う人の頭と体に、余計な負担をかけない」という一つの思想**から出ている。この「使う人に考えさせるな」を合言葉に一冊を書いたのが、スティーブ・クルーグの『Don’t Make Me Think』(直訳すると「私に考えさせるな」)だ。ルールを丸暗記するのではなく、この思想を覚えれば、ルールは自然に思い出せる。
譜例
棚(design-gallery)で、実際のサイトがどんなインタラクションパターンを使っているか確かめよう。三本線・タブ・モーダル・プルダウンが、どこにどう置かれているかを数えてみるとよい。
練習・チェック
- 自分がよく使うアプリを1つ開き、「主なパターンの一覧」で挙げた6つの型(ハンバーガー・モーダル・タブ・プルダウン・無限スクロール・トースト)のうち、いくつ使われているか数えてみよう。
- そのアプリの一番大事なボタン(送信・購入など)は、大きく・押しやすい場所にあるか。フィッツの法則の目で見てみよう。
- もし「これは独自の操作だな」という所を見つけたら、それは理由のある破り方だろうか。図8の問い――「この型で困る理由を一言で言えるか」――を当ててみよう。「人と違うから」しか出てこなければ、それは使う人に学習コストを押し付けているだけかもしれない。
用語 GLOSSARY
- UI(ユーザーインターフェース)user interface
- 画面のうち、人が実際に触って操作する部分。ボタン・メニュー・入力欄など、人とアプリの「接点」のこと。
- インタラクションパターンinteraction pattern
- 「この見た目なら、こう動く」という、世界中で共有されたUIの定番の型。三本線=メニュー、など。
- 学習コストlearning cost
- 新しい操作方法を「覚えるためにかかる手間」。独自の操作を作ると、使う人全員にこの手間を払わせることになる。
- 踏襲とうしゅう
- 先に確立されたやり方を、そのまま受け継いで使うこと。この本でいう「継承」と同じ向きの言葉。
- ハンバーガーメニューhamburger menu
- 三本線のボタン。押すとメニューが開く。三本線がハンバーガーの形に見えることからこの名がついた。
- モーダルmodal
- 今の画面の上に重なって出る小窓。閉じるまで後ろの画面は操作できず、注意を一点に集める型。
- タブtab
- 見出しを横に並べ、押すと中身が切り替わるUI。ノートの仕切り(インデックス)と同じ発想。
- プルダウン(ドロップダウン)pull-down / drop-down
- 押すと下に選択肢が開くメニュー。ふだんは畳んで隠し、必要なときだけ開ける。
- 無限スクロールinfinite scroll
- 下へスクロールし続けると、次の中身が自動で読み込まれ続けるUI。SNSのタイムラインで多い。
- トーストtoast
- 画面の隅に少しだけ出てすぐ消える、小さな通知。「保存しました」など、邪魔せず知らせる型。
- ページ送り(ページネーション)pagination
- 中身を1・2・3…とページに区切り、番号で行き来できるようにするUI。「最後まで来た」が分かるのが利点。
- 記憶より認識recognition over recall
- 人に思い出させる(記憶)より、選択肢を見せて気づかせる(認識)ほうが楽、という設計の原則。
- 記憶(リコール)recall
- 手がかりが何も無い所から、自分の頭だけで思い出すこと。「あのコマンド何だっけ」と探す状態。しんどい。
- 認識(レコグニション)recognition
- 目の前に選択肢があって「あ、これだ」と見て気づくこと。一覧から選ぶ状態。記憶よりずっと楽。
- フィッツの法則Fitts's law
- 押したい的(ボタン)は、大きいほど・近いほど、速く正確に押せるという法則。1954年にフィッツが示した。
- ヒックの法則(ヒック=ハイマンの法則)Hick-Hyman law
- 選択肢が多いほど、人は選ぶのに時間がかかる(迷う)という法則。1952年にヒック、翌年ハイマンが確かめた。
- ユーザビリティusability
- 使いやすさのこと。迷わず・間違えず・楽に目的を達せられるかを指す、UI設計の基本のものさし。
- ヤコブの法則Jakob's law
- 使う人は他のサイトで大半の時間を過ごすから、あなたのサイトも「他と同じ動き」を期待する、という法則。踏襲を支える根。
- パターンpattern
- 「繰り返し出てくる問題には、決まった良い解がある」その良い解のこと。建築家アレグザンダーが言い出し、UIに受け継がれた。
掟 RULES TO CITE
- 新しい操作方法を自分で発明しない。三本線=メニュー、タブ=切り替え、のような世界共通の型(インタラクションパターン)をそのまま踏襲する。発明すると、使う人全員に覚え直す手間(学習コスト)を押し付けることになる(典拠1・2・6)
- 機能を思い出させない。コマンドを打たせる代わりに、選択肢を画面に並べて「見せて選ばせる」。人は思い出す(記憶)より、見て気づく(認識)ほうがずっと楽だから(典拠3)
- 大事なボタンは大きく、指の届く近い場所に置く。逆に押してほしくないボタン(削除など)は小さく遠くに置く。的が大きく近いほど速く正確に押せるため(フィッツの法則=典拠4)
- 一度に見せる選択肢を絞る。多すぎる項目はプルダウンやタブで畳んで隠す。選択肢が多いほど人は迷って決められなくなるため(ヒックの法則=典拠5)
- 型を破るのは「定番より明らかに良くなる理由を、一言で言えるとき」だけ。順番はいつも、まず定番の型を引く→困った具体的な理由が出たときだけ理由をもって外す(典拠1)
- 迷ったら、人と違うことより「使う人が考えずに済むか」を選ぶ。すべての判断は『使う人の頭と体に余計な負担をかけない』という一点に戻す(典拠3・7)
典拠 SOURCES
- Jenifer Tidwell『Designing Interfaces』(O'Reilly, 初版2005/第2版2011/第3版2020。第3版は Charles Brewer・Aynne Valencia-Brooks との共著) ― UIの定番の型(インタラクションパターン)をカタログとして体系化した代表的著作
- Jakob Nielsen「Jakob's Law of the Internet User Experience」(2000/現在は Nielsen Norman Group が公開・維持) ― 『使う人はあなたのサイト以外で大半の時間を過ごす。だから既に知っている他サイトと同じ動き方を期待する』。踏襲が正しいことの直接の根拠
- Jakob Nielsen「10 Usability Heuristics for User Interface Design」(1994/現在は Nielsen Norman Group が公開・維持) ― 「記憶より認識(Recognition rather than recall)」を第6項に含む、ユーザビリティ10原則
- Paul M. Fitts『The information capacity of the human motor system in controlling the amplitude of movement』(Journal of Experimental Psychology, 1954) ― 的の大きさと距離で操作の速さが決まることを示した「フィッツの法則」
- William E. Hick『On the rate of gain of information』(Quarterly Journal of Experimental Psychology, 1952)/Ray Hyman『Stimulus information as a determinant of reaction time』(Journal of Experimental Psychology, 1953) ― 選択肢が増えるほど決定に時間がかかることを示した「ヒック=ハイマンの法則」
- Christopher Alexander『A Pattern Language』(Oxford University Press, 1977) ― 「繰り返し現れる問題への定番の解=パターン」という考え方の源流。のちにソフトウェア・UI設計に継承された
- Steve Krug『Don't Make Me Think』(New Riders, 初版2000) ― 「使う人に考えさせるな」を合言葉に、認知の負担を下げることを最優先に置いた実践書